安全守る山岳医療、CFで支援を

近藤幸夫の山へ行こう

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 新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に移行し、初めての夏山シーズンを迎えました。登山者が山に戻り、遭難が増加。転倒、滑落などによるけがだけでなく、夏山では熱中症なども目立っています。

 こうした状況を受け、国際山岳看護師の湯本智子さん(38)=長野県安曇野市=と理学療法士の望月良さん(47)=同県松本市=が「山岳医療を広めたい!プロジェクト」を立ち上げました。8月下旬からクラウドファンディング(CF)を始め、山岳医療団体への支援を呼びかけています。

 北アルプス八ケ岳などで登山者がけがや病気になったとき、頼りになるのは山小屋に併設された診療所です。大学医学部の有志らが運営しています。

 2010年、高山病低体温症などの登山医学を研究する日本登山医学会は、「山に登れるお医者さん、看護師さん」ともいえる山岳医、山岳看護師制度を発足させました。最近は診療所だけでなく登山口で、山岳医や山岳看護師らが医療従事者の立場から安全登山の呼びかけをしたり、登山ルートでパトロールなどをしたりするなど活動の場を広げています。

 16年8月、湯本さんは北アルプスの双六(すごろく)小屋の診療所でボランティアとして活動していました。山小屋の近くで遭難が発生。診療所の医師に同行して現場に倒れていた遭難者を応急処置してヘリコプター搬送しました。「貴重な経験をしたことで、山岳医療に携わりたいと強く思うようになりました」。今年5月、国際山岳看護師の資格を得ました。

 関西大学ワンダーフォーゲル部OBの望月さんは、16年から北アルプスの常念岳などで医療ボランティアとして活動しています。理学療法士としては唯一、「日本登山医学会認定山岳医講習」を修了しています。

 昨年7月、2人は山梨県北杜市の八ケ岳で実施された山岳医療パトロールの活動で出会いました。この時、2人は山岳医療の重要性について話し合い、自分たちでできることを考えました。

 湯本さんも望月さんも、山岳医療が登山者にはあまり知られていないことに危機感を抱いていました。山岳医療活動のほとんどは、医療従事者が余暇を使って自己負担するボランティアで成り立っています。また、山岳医療の活動に対して自治体からの支援が十分ではありません。

 思いついたのが、登山者向けの地図アプリで知られる「YAMAP(ヤマップ)」が運営するCFでした。山岳医療の支援金を募るだけでなく、啓発活動にも役立つと考えました。山岳医療の重要性や山での事故を未然に防ぐ方法を訴えることにもつながります。

 山岳医療に取り組む団体に呼びかけたところ、北杜市の「山岳医療パトロール」と鳥取県大山町の「大山山域山岳医療部会」の二つの団体が賛同してくれました。ともに登山道の巡回や登山口で安全登山の呼びかけなどの活動をしています。

 支援金は、二つの団体に渡し、医療物資の購入資金や活動者の交通費などに充てられます。目標金額は90万円。湯本さんは「今回のCFの活動は山岳医療を知ってもらう第一歩と考えています」と話しています。

 プロジェクトのサイトは「https://yamap.com/support-projects/958別ウインドウで開きます」。11月18日まで実施しています。

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