第5回民主化運動に捧げられた若き命 海賊版のコペル君が背負った韓国人名

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 1988年、韓国内で遺族の知らぬ間に翻訳・出版されていた吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」。2012年に出版された正規の韓国語版とは、内容に大きな違いがある。

 正規の翻訳版では、主人公ホンダ・ジュンイチ少年(コペル君)がギンザやカンダといった1930年代の東京を駆け回る。原文に忠実に、正確に翻訳された外国文学だ。これに対し、1988年版の主人公はコペル君が「キム・ジョンチョル」という韓国人名に置き換わり、舞台も1980年代のソウル・明洞になっていた。

 余談だが、「君たちは~」には、コペル君とその友達が、ラジオの野球中継ごっこをして遊ぶ場面がある。原作では戦前に人気のあった大学野球の早慶戦だったが、88年の韓国語版では、韓国の早慶戦に匹敵する延世大×高麗大の「延高戦」になっていた。

 いまほど一般人が外国文学に親しむことの多くなかった1980年代の韓国では、こうした「翻案」は珍しくなかったのかもしれない。韓国で今でも根強い人気がある90年代の日本の漫画「SLAM DUNK」も、主人公の名前は「カン・ベクホ」という韓国人名に変えられている。

 そんな中で私は、「ジョンチョル」とされた主人公の名前に、ただならぬ意味を感じ取った。

 映画「君たちはどう生きるか」のタイトルのもとになった同名の本は、戦前~戦後に活躍した文化人・吉野源三郎の著作です。源三郎を祖父にもつ吉野太一郎記者が、映画を入り口に、本のメッセージに改めて向き合います。

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