どうなる?国家百年の計 日本の大学を弱体化した「選択と集中」の罪

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社会学者・西田亮介=寄稿
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Re:Ron連載「西田亮介のN次元考」第3回

 高校への進学率が100%に近づき、大学へのそれも57%に達する日本は、紛れもなく高等教育大国である。だが、相対的に見たその現状を、読者諸兄姉はご存じだろうか。

 筆者のように大学を職場とする人間が願うのは、現在の大学の真の姿を知ってほしいということだ。大学の姿は刻々と変わる。現に筆者が通っていた約20年前の大学と、勤務している今の大学とでは、大きく異なっている。そして、言わずもがなだが、大学や高等教育には、当然ながら政策の産物としての側面がある。

 Re:Ronの連載3回目となる本稿では日本の高等教育、わけても大学が抱える問題を取り上げたい。

アジア大学ランキングの寂しい結果

 このテーマを取り上げるのには幾つかの理由がある。第一の理由は、6月末に著名なイギリスの高等教育専門誌「THE Times Higher Education」(以下、THEと表記)が最新の「アジア大学ランキング2023(Asia University Rankings 2023)」を公開したことだ。

 THEは「教育」や「研究」、「被引用論文」「国際性」などの指標で大学を評価。イギリスの教育評価機関「Quacquarelli Symonds」(QS)が発表するランキングと並んで、もっとも参照される大学の世界ランキングのひとつだ。THEのランキングは教育と収入、国際化のウェートが高くなっているのが特徴だ。

 「アジア大学ランキング」のトップ10は、清華大学(中国)、北京大学(同)、シンガポール国立大学(シンガポール)、香港大学(香港)、南洋理工大学(シンガポール)、香港中文大学(香港)、香港科技大学(同)、東京大学(日本)、復旦大学(中国)、上海交通大学(同)。中国、香港の多さが際立つ。

 中国は意欲的にランキングの特徴を踏まえた施策を採り入れ、なにより大学と高等教育に大胆に投資を行っている。シンガポールと香港は国・地域の規模が小さく大学数は少ないが、積極的な投資は同様だ。

 同ランキングには669校が参加、日本の対象校は117と最も多いが、トップ10には東京大学しか入っていない。日本の上位5校は、京都大学18位、東北大学34位、大阪大学47位、名古屋大学49位で、筆者が勤める東京工業大学は56位(ここまでがトップ100に入る6校)。トップ20には東大、京大しかランクインしておらず、いささか寂しい結果だ。

 大学ランキングの評価は研究が重要視されるため、日本では大学院組織の規模が大きな指定国立大学が研究大学として上位に位置づけられる。日本には800程度の大学が存在するが、量的には私学が多く、国公立大学の数が少ない。これは経済協力開発機構(OECD)の教育に関する定点観測の報告書(「Education at a Glance」)でも注記されている。

 そのなかで有名私大の位置づけはどうか。慶応義塾大学は201-250位、早稲田大学は301-350位、立命館大学は501-600位、同志社大学は601+にとどまる。興味深いのは世界ランキングをブランディング戦略の重要ベンチマークに位置づけ、改革を行いながら「西日本私立大学1位」を標榜(ひょうぼう)する近畿大学だ。301-350位と早稲田大学と肩を並べる。

 年長世代には「アジアではなく世界ランキングの間違いではないか」と感じる人もいるかもしれないが、これが現実だ。世界、競合するアジアの周辺国が高等教育と研究開発投資を増大させるなか、日本がそれを怠った結果だろう。背景にあるのは「選択と集中」だ。

 日本は過去20年、それ以前…

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