代々守った用水路、棚田発電所に活用 着手から10年、地震で中断

城戸康秀

 熊本県大津町の外牧(ほかまき)地区で、棚田を流れる農業用水を利用した「大津畑(はた)水力発電所」が完成した。江戸時代から利用されてきた用水路を活用し、売電収入を棚田の保全などにいかす試みだ。

 同地区は立野峡谷を抜けた白川の南側に位置する。周辺には川の水を取り込む堰(せき)と井手(用水路)が多数あり、「六堰七井手」と呼ばれる。井手の多くは今も現役で、このうち最上流部につくられた「畑井手」の豊かな水量と高低差が、発電に利用されている。

 県棚田発電等推進協会によると、2013年に調査が始まり、土地改良区と町の地元開発の形で計画が進んでいた。ところが、16年の熊本地震で井手が土砂に埋もれるなど深刻な被害に見舞われた。

 計画の存続が危ぶまれたが、発電事業などを手がける九州電設と熊本利水工業(いずれも熊本市)の2社が共同出資して会社を設立して民間主導で再出発。21年8月に着工し、総事業費約4億円をかけて今年2月に完成、発電を始めた。棚田発電所としては21年完成の南阿蘇村に次いで県内2カ所目。

 井手の取水口から発電施設までは約500メートルあり、落差は23メートルあまり。導水管の太さを絞りながら水圧を高めて水車を回し、発電能力は188キロワット。約200世帯分の電力をまかなえる計算だという。季節を問わず24時間安定して発電でき、売電収入は年間約4千万円と見込んでいる。

 収入の一部は水の使用料や管理委託料として、地元の畑井手保全組合や土地改良区に払われる。

 棚田の農業用水という地域の「眠れる資源」を活用した発電所が、再生可能エネルギーをうむ一方で、農業振興と棚田の景観維持にも貢献する形だ。

 同協会の代表理事で、旧清和村(山都町)の村長時代から小水力発電にかかわってきた兼瀬(かねせ)哲治さん(77)は「この発電所は、石炭火力に比べ二酸化炭素の排出量を年間600トン削減できる」と強調。「豊富な水と標高差がある適地は県内の中山間地に数多くある。棚田発電は農山村地域と地球を救うことになる」と力を込める。

 江戸時代初期に畑井手ができたことで、新たに55ヘクタールの新田ができ、現在ではその灌漑(かんがい)面積は約146ヘクタールに達するという。そうした施設は地元住民の手で守られてきた。23日の完成式に参加した、畑井手保全組合の栗木生夫組合長(89)は「補修に苦労しながら代々守ってきた堰と井手が活用されることは地域の誇り。委託料が入り、組合員一同たいへん喜んでいる」と話していた。(城戸康秀)…

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