宇都宮と芳賀を結ぶ次世代型路面電車が開業 国内の新設は75年ぶり

高橋淳 石原剛文
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 構想浮上から30年をかけて、次世代型路面電車(LRT)が26日、宇都宮市栃木県芳賀町間で開業した。路面電車の全面新設は国内で75年ぶりだ。車社会と言われる栃木。事業費684億円を投じた新しい公共交通が県民の足として定着するのか、注目される。(高橋淳、石原剛文)

 LRTの出発を見送ろうと、始発の停留場があるJR宇都宮駅東口周辺には、朝から多くの市民や鉄道ファンが詰めかけた。

 ホームでは発車式が催され、関係者がテープカットをした。広島電鉄の元役員で、LRTの運行会社「宇都宮ライトレール」に招かれ、LRT事業に当初から携わってきた中尾正俊・安全統括管理者が「出発進行」と号令をかけると、「雷」をイメージした黄色と黒の流線形の車両がゆっくりと動き出した。集まった人たちは手や旗を振りながら見送った。

 出発式に先立って開かれた開業式では、宇都宮市の佐藤栄一市長が「LRTは脱炭素社会の実現にも寄与する。持続的に発展できるまちづくりに取り組む」と強調した。芳賀町の大関一雄町長も「LRT開業という好機を生かし、住んで良かったまちづくりに全力で取り組む」と述べた。

 この日は開業を祝うパレードもあった。宇都宮駅東口―東宿郷停留場間をLRT車両とパレード隊がゆっくりと進み、交差点で車両が止まると、ダンスパフォーマンスがスタート。沿道には大勢の見物客が集まり、拍手と歓声を送っていた。

 一般の利用客の乗車が始まったのは午後3時から。宇都宮駅東口を出発する10本の列車は整理券の対象になった。午前8時から配布が始まった整理券1200枚は約2時間でなくなった。

 先頭の整理券を受け取った横浜市の樫野央彦(てるひこ)さん(55)は、前日の午後6時から並んだという。「横浜市の市電はなくなってしまったが、2時間で来ることができる場所に路面電車ができて喜んでいる。路面電車は自動車の中を走るのが魅力。乗りごごちがよく、バリアフリーのLRTは、これからの時代には必要」と話した。

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 LRT整備には地元に根強い反対の声がある。宇都宮市の市民団体「宇都宮市のLRTに反対し公共交通を考える会」は、市の予算支出が不当・違法として事業の中止を求めて住民監査請求をしたほか、国土交通省に工事施工認可の取り消しを求めて提訴した。

 同会の上田憲一代表は「環境面でみても、電気バスや水素バスがある時代に、なぜLRTなのか。バスで不都合という話は聞かない」と話す。

 7月には、市が今後整備を予定するJR宇都宮駅西口側路線の撤回を求める要望書を佐藤栄一市長に提出した。LRT整備の主な理由のひとつは、車の渋滞対策だが、駅西口にはそもそも大きな渋滞がないとして、LRTの意義に疑問を呈する。

 26日に開業した駅東口側路線では、路線の整備に伴い街路樹が伐採された。軌道の敷設で車線を道路の外側に移したことなどから、宇都宮市ではJR宇都宮駅東口周辺や清原工業団地周辺で桜やトチノキ約600本を切った。

 芳賀町でも同様に「かしの森公園」周辺の街路樹の桜約250本を伐採した。失われた景観を惜しむ声があがり、町は五行川周辺に新たな桜の名所として遊歩道を整備する計画を進めている。

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