「ひろしまのピカ」朗読100回めざす俳優 故木内さんに背を押され

核といのちを考える

伊藤繭莉
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 「原爆の図」で知られる丸木俊が描いた、絵本「ひろしまのピカ」の朗読会を100回開くことを目指し、全国で活動する俳優がいる。東日本大震災をきっかけに核の問題に関心を持ち、原爆に関する朗読劇を始めたところ、親族にまつわる思わぬ事実も知った。

 「ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん」

 千葉市出身の岡崎弥保さん=横浜市在住=は23日、習志野市の公民館で27回目となる朗読会を開いた。絵本の原画をスライドに映し出しながら登場人物になりきり、最後の一文までひとり語りした。絵本を作るきっかけとなったエピソードを紹介するため、作者の丸木俊も演じた。

 岡崎さんは出版社の編集者を経て、30代半ばで俳優業を始め、数々の演劇の舞台に出演。現在はフリーで朗読をしている。

 核の問題に関心を抱いたきっかけは東日本大震災から2年後、福島への訪問だった。東京電力福島第一原発事故の影響で立ち入りができなくなった地域では、復旧復興が止まっていることに驚いた。

 「核の問題を過去から学びたい」と思い、広島と長崎の被爆者に会いに行った。今も健康被害や差別などに苦しんでいることを聞き、「過去のことでなく、今のことだった」と思い知らされた。

 2014年からは、原爆を題材にした戯曲「父と暮せば」の朗読劇の上演を始め、9年間続けた。そんな活動のなかで、母親から思わぬ事実を聞いた。

 開業医だった祖父が、広島原爆投下直後に救護のため、市内に入り被爆の惨状を見ていたこと。学生だった親族が爆心地から近い長崎医科大学(現在の長崎大学医学部)で被爆死していたこと――。初めて聞く話で、ただただ驚くばかりだった。「それまでの自分の無関心さに腹が立った」という。

 14年に「原爆の図丸木美術館」(埼玉県東松山市)を訪れた時に、「ひろしまのピカ」と出会った。後書きを読み、ある女性の体験をもとに描かれたことを知った。同時に、被爆者の怒りを強烈に感じた。

 「原爆の図」を描いた丸木位里・俊夫婦の生き様にも感銘を受け、15年に朗読を吹き込んだCDを発売。美術館などで朗読会を始めた。一昨年までで12回の朗読会を開催し、「身近な場所では、大体やったな」と感じていた。

 昨年、原爆の絵本「おこりじぞう」の朗読を100回やると公言していた、俳優の木内みどりさん(享年69)を追悼する映画祭に参加した。木内さんが生前「人間本気になれば、大抵のことはできる」と話していたことを知った。

 12回で一区切りと思った自分の朗読への取り組みは、本気だったとはいえないのではないか。偶然にも、木内さんが朗読をした回数は、岡崎さんが「ひろしまのピカ」の朗読会を開いてきたのと同じ12回。木内さんに背中を押されているように感じ、同じ100回をめざすことを決めた。

 「どんな場所でも、どんな規模でも、出向いて朗読します」とチラシをつくり、スライド上映のための機材を購入。全国各地から依頼が舞い込むようになった。「100回と掲げていますが、核がなくなるまで朗読をし続けたい」(伊藤繭莉)

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