「聞く」から「自ら調べる」戦争の継承へ 茨大生が動画に込めた思い

富永鈴香
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 茨城大学の学生たちが、県内の戦争遺跡を紹介する動画を制作した。きっかけは2年前。佐々木啓准教授(日本近現代史)の研究室のポストに届いた1通の手紙だった。

 戦争遺跡を紹介する動画を、学生たちの手で作ってもらいたい――。

 依頼主は小島正代さん(50)。茨城県生活協同組合連合会などによる「ピースアクション実行委員会」の当時の委員長だった。例年、戦争遺跡を巡るイベントを開いてきたが、新型コロナ禍で休止に。代わりに動画を作ろうと考えた。

 そのアイデアに、高校生だった息子は「動画はいいと思う。でも、お母さんの世代が伝えようとすると、あんまり……」。

 若い世代が見るものは、同世代が作るほうがいい。小島さんはそう考え、県内の戦争遺跡調査で知られる佐々木研究室に手紙を書いた。「戦争を考えるきっかけになるように」とだけ条件を伝えた。あとは学生の感性に委ねた。

 佐々木准教授にとって動画制作は初めてだったが、自身のもとで学ぶ学生たちのゼミの活動と合致すると思い、引き受けた。学生たちは昨年度の活動の一環で、1年かけて制作した。

 動画では、風船爆弾放球台跡地(北茨城市)や内原郷土史義勇軍資料館(水戸市)など、県内にある10カ所の戦争遺跡や資料館などを紹介する。小中学生にもわかりやすいよう、易しい言葉で説明し、33分間にまとめた。

 戦争の記憶を次世代につなぐには、何が必要か。「伝える側」になった学生たちはその答えを探った。

 ゼミ長だった同大大学院1年の海野貴之さん(22)は、「ローカリティー(地域性)」と「加害」を意識した。現在の美浦村にあった鹿島海軍航空隊からは戦争末期、特攻隊が沖縄方面へ飛んだ。「特攻隊や沖縄地上戦が、どこか遠い場所の遠い記憶に思われていないか。自分たちが住む茨城で起きたことを知れば、もっと戦争が身近に感じられる」

 旧満州への侵攻や朝鮮人の徴用問題など、加害の側面も取り上げた。自分が傷つけられることと同じだけ、相手を傷つけることを恐ろしいと感じているからだ。「戦争には攻撃されてつらいだけではない、複雑な苦しみや痛みが混ざり合っている」

 同大4年の細島瑠花(るか)さん(22)は、「子どもや女性」にスポットライトを当てた。兵士の無事を願い、千人の女性が一人一針縫った「千人針」もその一つ。「大人の男の人だけが戦争に従事したと思わないよう」、動画を見る人と同じ年齢や属性に目線を合わせることが必要だと考えた。

 佐々木准教授は、世代によって戦争の受け止め方が違ってきていると感じている。「僕らは『はだしのゲン』を読んだ世代。戦争体験者の話を『押しつけられた』という感覚はなく、素直に受け止めていた」。しかし、ある学生は、戦争を伝える碑のメッセージよりも、亡くなった人の名前が連なっているほうが心に響くと話していた。

 「メッセージは伝えようとして伝わるのではない。答えを用意せず、考えてもらうことが大事だと気付かされた。学生たちは、自分たちならではの伝え方を考え、子どもや外国人、女性へと視点を移し、自分たちのまなざしを加えた」

 海野さんは伝えるための答えを探し続けるという。「今までの戦争の継承は、『聞くだけ』だった。これからは、自分たちで調べて戦争の歴史を捉え返していく。その一助として戦争遺跡があるのではないか」

 動画は県生活協同組合連合会のホームページ(http://www.ibaraki-kenren.coop/iseki.html別ウインドウで開きます)で視聴できる。希望する学校にはDVDを無料で配布する。問い合わせは、同連合会(029・226・8487)へ。(富永鈴香)

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