三陸ホタテ、止まらぬ浜値の下落 放出前に始まった処理水の「被害」

有料記事福島第一原発の処理水問題

平川仁
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 宮城・牡鹿(おしか)半島の中ほどにある五部浦湾。

 女川町のホタテ養殖漁師、木村義秋さん(71)は6月末になると毎日午前3時、40代の息子と小型船で漁に出る。海中からホタテがついたロープを機械で巻き上げてかごに入れ、甲板上に積み上げていく。

 漁期に入るおよそ1カ月前、木村さんは宮城県漁協の担当者から1本の電話を受けていた。

 「6月4日から1キロ530円になる」。月2回あるホタテの浜値の報告。それまでの550円から20円下落したが、この時はあまり気に留めなかった。

 だが、電話を受けるたびに浜値は下落。無視できないものになっていく。

 「7月16日から、450円」

 「8月2日から、420円」

 「8月20日から、400円」

 さらに、浜値の下落に呼応するように、業者が買い取る量も減っていった。7月に1日約1・3トンあった注文は、8月に入ると約800キロまで落ち込んだ。

 1日1トン水揚げしないと、シーズンが終わる10月までに、売り切ることができない。このままでは、売り上げが稚貝の仕入れ値を下回る「採算割れ」の可能性も出てきた。

 ホタテの浜値が落ちている理由について、木村さんは卸業者から、ある話を聞いた。「処理水の影響で、中国向けの北海道産ホタテが余っているらしい」

 東京電力福島第一原発事故の処理水の海洋放出はまだ始まっておらず、自分はホタテを国内向けにしか出荷していないのに、なぜなのか――。

放出時期の発表で状況が一変

 北海道はホタテの一大産地で…

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    中島隆
    (朝日新聞編集委員=中小企業の応援団長)
    2023年8月21日6時30分 投稿
    【視点】

    ひどい話です。政治は、こうやって声をあげている人たちの思いを踏みにじってきました。基地しかり、IRしかり。本日の朝刊を見ていると、岸田さんとバイデンさんとユンさんの写真が載っています。勇ましいですね。そして、左の方には、原発処理水の放出を決

    …続きを読む
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    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2023年8月24日20時58分 投稿
    【視点】

    こうした報道をする弊紙が風評被害を広げているという投稿が旧ツイッターに散見され、驚きました。何よりこの記事への指摘として的外れです。中国への輸出が減って国内で値崩れという、日本の漁師が置かれた苦境を伝えているのですから。  処理水放出は科

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