第2回重症者向けシステムまで止まった早朝 DMAT医師の直感は的中した
連載「記憶喪失になった病院」
【プロローグから読む】大病院を「修羅場」に変えたサイバー攻撃 異変はひそかに忍び寄った
被害に直面した病院職員や関係者らへインタビューし、発生から48時間の奮闘を追った連載です。
大阪急性期・総合医療センターを2022年10月に襲ったサイバー攻撃。その端緒ともいえる電子カルテシステムの「異変」は、夜明けの病院を静かに侵食し始めた。(文中敬称略)
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「画面が切り替わるのが少し遅いな」
10月31日午前5時50分、パソコンのマウスをクリックした西谷亜希子はこう感じた。
病院の看護師長を務める西谷は病棟11階のナースステーションにいた。この日は当直勤務で、救急初期診療センター(ER)に運び込まれた患者の容体について、電子カルテでチェックしようとしていた。
患者が入院する必要があるか予測し、あらかじめベッドを確保するためだ。
少しして、ERの看護師から「電子カルテが動かない」と連絡が来た。別の病棟からも同じ情報が相次いで寄せられた。
「システムトラブルかな」
過去にも電子カルテのシステムが止まったことはあった。数時間から半日で復旧していた。
主な登場人物
西谷亜希子=看護師長、藤見聡=高度救命救急センター長、植田悦代=副看護部長、丸尾明代=特命副院長(23年3月で退職)、嶋津岳士=総長、磯貝英智=事務当直当番
病棟を回り始めた。ベッド数が計865床ある病室は主に5~12階にある。このほか、新生児集中治療室(NICU)など別の病棟にも分散していた。
途中、看護師が持つスマートフォンの動きが悪いという報告も寄せられた。スマホは電子カルテとつながれており、患者の血圧や体温を測って入力したり薬の処方をチェックしたりできる。
そのスマホも動作が停止するなど、不安定だった。そこで西谷は「紙のカルテに切り替えましょう」と伝えた。障害などで電子カルテが使えない場合、復旧までの患者の記録は紙のカルテに残すと決まっていた。
最初に異変を感じてから30分後の午前6時20分ごろ、いったん電子カルテの調子が戻った。
「動き出したね。よかったね」
当直の看護師たちとそう言い合ったと、西谷は記憶している。
「今までのトラブルと違う」
ところがその30分後、重症…