生きづらい人たちの居場所に 畑のあるカフェのオーナー

小崎瑶太

 【石川】金沢市南塚町に「野菜古民家」という名のカフェがある。築約100年の建物で、有機野菜をふんだんに使った食事を味わえる。オーナーは、摂食障害の人を支援するNPO法人「あかりプロジェクト」代表理事の山口いづみさん(46)。「生きづらさを感じる人たちの居場所に」という目標を掲げている。

 山口さんがNPOを始めたのは2008年。自身も中学生のころ過食症になり、20代で食べては吐くことがとまらない過食嘔吐(おうと)症にもなった。医療も周囲の理解も足りない。「本当に苦しくて壮絶だった」。それでも「自分はこのままでもいいんだ」、そう肯定できてようやく、30代になって克服することができた。「過去の自分の経験を生かしてしんどい思いをしている人たちの役に立ちたい」。そんな思いでNPOを立ち上げた。

 摂食障害と言っても人によってさまざまだ。食べるのがとまらなくなる過食症の人もいれば、過食嘔吐症や、食べることを極端に制限してしまう拒食症の人もいる。「自分の体と心が一致していない。そんなしんどさを感じるのです」。外出するだけで気疲れしやすく、引きこもりがちになる人も多いという。

 「どうすれば外に出たいと思ってもらえるか」。編み物、畑、パステル画、ヨガなど約50件を試した結果、人気があったのがコーヒー豆の焙煎(ばいせん)だった。「おしゃれな感じや、日常を感じられるところが魅力的だったのだと思う」

 そこで21年、障害者を対象に生活や就労を支える施設(多機能型事業所)を石川県野々市市に設立。コーヒー豆を選び、焙煎し、販売してきた。「飲んだ人の『からだ』に『こころ』がかえってくるようなコーヒーになってほしい」との思いで「からこ舎」と名付けた。摂食障害の人はもちろん、適応障害やうつ病の人なども自分のペースで働ける場を目指してきた。しかし、コーヒーだけで続けていくのは難しい。

 そんな時、夫が営む喫茶店の客が「野菜古民家の事業承継者を求めている人がいる」と教えてくれた。店の隣には農薬を使わない有機栽培の野菜畑があり、耕さずに育てるという自然農法にも挑戦していたという。「畑があって、調理もできる。より幅広い仕事ができていいのではないか」。今年1月から経営を引き継ぎ、からこ舎のメンバーにも営業準備や畑仕事をしてもらっているという。

 大切に育ててきた自然農法の畑には雑草が茂り、ミニトマトが実を付けている。山口さんに「農薬を使わないと小ぶりになるけれど、味が濃くておいしいですよ」と勧められ、一つ口に運んだ。実がつまっていて、ほどよい酸味がおいしい。

 自然農法の畑も有機栽培の畑も、育て方を探っているところだが、畑を担当しているスタッフが最近、こんなことを口にしたという。「化学肥料を与えずに野菜そのままを生かす自然農法は、今の自分を認めてあげることが大切な摂食障害の人にぴったりだと思う」。ありのままに自分らしく。山口さんは「世界一働きやすい職場を目指しつつ、お客さんたちにも安心して野菜を楽しめる、居心地のいい空間にしたい」と語る。問い合わせは野菜古民家(076・272・8728)、からこ舎(076・256・2548)。(小崎瑶太)…

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