第2回「おらんときはおらん」どこかさっぱりした探鯨 でも無線が入ると…
【連載初回はこちら】取材断られ…記者は町に住み込んだ
和歌山県太地町で続くクジラやイルカの追い込み漁。ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」で批判的に描かれ、論争の的になりました。漁師たちはどんな人たちなのか。日々何を考えているのか。漁師たちのいまを伝えます。全10回の連載です。
船が煙をあげ、沖へ向かいはじめるのは午前7時まえ。朝焼けのなか、12隻が1列になって港を出ていく。
そのうちの1隻に私も乗った。
船と船の間で無線が飛びかいはじめる。
12隻は沖合で散らばった。太地沖の熊野灘を放射状にひろがっていく。
海はそのときどきで表情がちがう。風が吹いた翌日は海にうねりがのこっていて、船を左右にゆさぶる。波や風が弱いときでも船は前後にゆらりゆらりする。
出航から15分もたたないうちに、私のとなりの操縦席で漁師が海を見はじめた。双眼鏡を顔にあてて体を左右にふり、クジラやイルカの群れを探す。
太陽が海面から顔を出しはじめた。あたりはすっかり明るい。
船の速度は8ノット(時速15キロ)ほど。想像していたよりゆっくりだ。
浜で見た漁師ののんびりした姿は、海の上でも大きく変わらない。血まなこになって群れを探すというより、「おるときはおるし、おらんときはおらん」と、どこかさっぱりしている。
船から見えるのは小さく波うつ紺色の海面ばかり。
「同じ波でも風の波じゃなくて、生き物っぽい波っていうんかな」
「のぼってくる太陽の真横あたりやと、潮ふきが白っぽく見えるときがあるんよ」
「探鯨」のポイントを漁師に聞いても、私にはぴんとこない。
「1回として同じ追い込みはないよ」 漁師の言葉の意味は
昨年9月から今年4月まで(スジイルカなどは2月まで)のこの漁期、水産庁が定めた太地いさな組合の捕獲枠は9種の計1849頭。漁師たちは群れを見つけても、捕獲対象でなければ追わない。
それらしい群れが見つかったら、近づいて色や形で種類を判断する。
漁師の仕事の大半は「待つ」ことだ。
漁期途中の2月までの半年間、天候が悪い日をのぞいてほぼ毎朝、沖に出る。いつもクジラが見つかるわけではない。見つからない日は沖でUターンして太地に帰る。
漁期がはじまった昨年9月は台風でまともに海に出られなかった。台風が過ぎさるのを、群れが現れるのを、ひたすら待つ。
手ぶらの日が続いても、「そういうもんやから」。相手は自然だ。
私が漁の難しさを漁師たちに聞いても、みな「長年やってるから何となくやなあ」とあいまいだ。この仕事の「妙」を大仰に語る人はいない。
多くの漁師が、大切なのは「…