ナチスは「良いこと」もした? 逆張り主張に応答、研究者の危機感

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平賀拓史
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 第2次世界大戦の惨禍を招き、ユダヤ人を大量虐殺したナチス・ドイツ。でも、経済を立て直し、手厚い福祉政策を実現するなど、良いこともしたのではないか――。そんな「逆張り」の主張にナチスを専門とする2人の研究者が正面から向き合った1冊が、異例の反響を呼んでいる。

 7月に刊行された「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」(岩波書店)。120ページの平易なブックレットながら、各地の書店やネットでも品切れが続出した。刊行後1週間で3刷が決まり、岩波書店の担当者は「ブックレットがここまで話題になるのは珍しい」と驚く。

 著者は、東京外国語大学の小野寺拓也准教授(48)と甲南大学の田野大輔教授(53)。執筆のきっかけは、一昨年にさかのぼる。

 田野さんが「30年研究しているが、ナチスの政策で肯定できるところはない」とツイッターでつぶやくと、アウトバーン建設やフォルクスワーゲンの開発など、ナチスのした「良いこと」だとするものを挙げて田野さんを批判する投稿が多数寄せられた。ただ、示されてくる事例は、専門家による研究ですでに否定されているものばかりだったという。「一般と専門家との間にある大きなギャップを埋める必要がある、と危機感を感じた」

 第2次世界大戦の惨禍を引き…

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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2023年8月5日13時0分 投稿
    【視点】

    「良い/悪い」というのは、誰にとってなのか、どういう物差しで測るのかによってまったく異なる問題だ。ある現象や政策を「良い」と判断するのは、その立場や物差しを含めて肯定することを意味する。だから、「ナチスの政策にも良いところはあった」と主張す

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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2023年8月5日17時50分 投稿
    【解説】

    この書物はいま巷でもたいへんな話題で、評価も高い。この記事で触れられていないその理由の一つに、著者の一人、田野大輔先生が、優秀な研究者であると同時に「ネット民」であり、逆張り論者の「特殊事例を強引に一般化したがる」的な心性を知り尽くしている

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