タイブレークで強豪校敗退 1点差の決勝25試合 地方大会振り返る

山口裕起

 第105回全国高校野球選手権記念大会の49代表が30日、出そろった。3486チームが参加し、白球を追った今夏の地方大会を振り返る。

 試合を早く決着させることで投手らの負担を軽減しようと、タイブレークの開始イニングが十回に前倒しされて初めての地方大会だった。

 無死一、二塁から攻撃を始めるタイブレークは2018年に導入され、昨年までは十三回からの適用だった。

 効果は見てとれた。昨夏の延長戦195試合と今夏の186試合を比較すると、十回での決着が昨夏の99から147に増え、十一回の決着は42から31に、十二回の決着は23から7に減った。昨夏は十三回以降の決着が31試合あったが、今夏は1試合だけで十三回での決着だった。

 投手の球数や選手の疲労度を考えると、健康面にとっては前向きな大きな変化になった。

 一方でこの3イニングの短縮が試合の流れに影響を与えたようにも感じられた。

 今春の選抜で優勝した山梨学院は準決勝で駿台甲府に延長10回、7―9で敗れた。昨夏の全国選手権準優勝の下関国際(山口)も準々決勝で延長10回、0―1で南陽工に競り負けた。

 中止の2020年を挟んで大会4連覇を狙った明徳義塾(高知)も延長11回、1―2で高知中央に負けた。

 前倒しが決まったとき、「九回までの流れがぱたっと止まってしまう」「互いにリスクを背負うことになる」といった声を強豪校の監督から聞いた。

 無死一、二塁を想定しての対策は立てているのだろうが、延長に入ってすぐに点が入りやすくなる状況は、強豪校とはいえ、戦いにくさがあったのではないか。

 一方で実績で勝る相手に挑むチームにすれば、延長に持ち込めば勝機が広がると前向きにとらえることもできる。

 例年以上に接戦や逆転など好試合が多かったという印象を受けた。特に決勝は49試合のうち25試合が1点差だった。

 各地の球場にはコロナ禍以前の大声援が戻っていた。大阪大会決勝で大阪桐蔭のエース前田悠伍から2点適時打を放った履正社の9番打者・野上隼人は「打撃は苦手だけど、声援に背中を押され気合が入りました」と言った。

 スタンドからの後押しが、互いにあきらめない好ゲームを生んだ要因の一つになったように思う。

 今夏の全国選手権では五回終了時に10分間の「クーリングタイム」が導入されるが、地方大会では五回終了時に限らず、工夫しながら水分補給や休息時間を設けている。選手や指導者からは「ありがたい」という声も聞こえた。

 導入初年度だった昨夏は35大会で採用された継続試合は、今夏は宮城をのぞく48大会にまで拡大した。

 酷暑のなか球児の安全を守るための取り組みをこれからも模索していかなければと思う。

 49代表が集う全国選手権は8月6日に開幕する。360度の大歓声が甲子園にも4年ぶりに戻ってくる。熱い接戦を期待したい。(山口裕起)

昨夏と今夏の地方大会での延長戦

【延長の試合数】

2022年=195

2023年=186

【決着したイニング】

十回 22年=99 23年=147

十一回 22年=42 23年=31

十二回 22年=23 23年=7

十三回 22年=20 23年=1

十四回以降 22年=11 23年=0…

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