イランとサウジ、和解は本物か 「前向き」会談後に現場で感じた不信

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テヘラン=佐藤達弥

 「当局が文章で発表する内容と、現場に足を運んで見えるものは違うことがある」。駆け出し記者のころ、先輩にそう教わった。私が駐在するイランと、ペルシャ湾を挟んで対立してきたサウジアラビアの国交正常化をめぐる動きを取材しながら、この言葉を思い出すことがあった。

 イスラム教の2大聖地を抱えるスンニ派の盟主サウジアラビア。1979年に革命で親米王朝を倒し、シーア派を国教とするイスラム共和国体制のイラン。両国関係が悪化したのは、サウジで反政府デモを率いたシーア派の指導者が2016年1月に処刑されたことだった。これに怒ったイランの群衆が地元のサウジ大使館を襲ったことで、断交に至った。両国の対立は、周辺国も巻き込んで中東地域の緊張を高める大きな要因となってきた。

 その両国が今年3月、国交正常化で合意したことを発表し、双方の大使館を2カ月以内に再開すると発表した。米欧の制裁下にあるイランは国際的な孤立を避ける狙いがあり、サウジは自国の経済改革を成し遂げるため、周辺国との関係を安定させたかったといわれる。和解のニュースは、仲介の労をとったのが中国だったこともあり、衝撃をもって世界で受け止められた。中東で圧倒的な影響力を誇ってきた米国の存在感の低下を印象づけることになった。

 それから3カ月たった6月17日、サウジのファイサル外相が合意後初めてイランを訪れ、アブドラヒアン外相と会談した。「非常に前向きで建設的な雰囲気だった」。イランメディアは会談後、そんな外務省報道官のコメントを伝えた。

 現地で取材した私が見たのは、そんなコメントを額面通りには受け取れない光景だった。

 その日。両外相の共同記者会…

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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年8月7日3時9分 投稿
    【解説】

    記者会見の部屋が移されたのはソレイマニの肖像画がかかっていたというのは本当らしい。ただ、その後儀典長がクビになり、そこでサウジとは手打ちとなっている。大使館再開も、サウジの大使館の建物を使っていなくても、業務が進んでいるということは前進して

    …続きを読む