来春開業の「ハピラインふくい」、「苦境」見据え新規事業計画

長屋護
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 来春の北陸新幹線の福井開業に伴い、JR北陸線福井県で並行する区間は第三セクター「ハピラインふくい」(福井市)が引き継ぐ。だが、同沿線で発足した富山、石川両県と比べ、「苦境」が予想され、順風満帆と言える状況ではない。本業の赤字を減らそうと、新規事業を模索する社員もいる。

 福井駅西口から約3・5キロ。市の中心部を流れる足羽川下流の水田地帯の一角に、池田康成さん(27)のビニールハウスがある。池田さんは2019年8月に発足した「ハピライン」の1期生だ。

 ハウスにイチゴの苗を植えたのが6月初旬。休日や仕事が終わった後などにハウスを訪れ、生育を見守っている。収穫予定は9月中旬。来年は7~9月に収穫できるように栽培する。

 県園芸振興課によると県内イチゴの作付面積は約3・5ヘクタール(21年産)。全国1位の栃木(509ヘクタール)の100分の1に満たず、産地とはいえない。

 それでも始めたのは会社の寮で有志と取り組んでいる野菜作りがきっかけだ。たまたまイチゴを作ったとき、これまでにない反響が寮内であった。

 「地域を盛り上げる活動にいかせるのではないか」

 そして着目したのが夏のイチゴだ。生産は東北地方や北関東など一部地域だけで希少性が高い。

 学術論文を参考に22年3月、寮内に小さなハウスを作った。6品種で試験栽培し、福井の気候にあった品種を絞り込んだ。

 その成果を一緒に活動した仲間と、福井市の「ビジネスプランコンテスト」に応募。2月の最終選考会でグランプリを受賞した。

 暑さに弱いイチゴ栽培の対策として活用したのが、冬場に融雪で利用している地下水だ。イチゴの茎に沿うように、くみ上げた水を冷気が外に伝わりやすい直径約2センチのパイプに流し、それを土の中にも通し、温度の上昇を抑えるなどした。

 ハウスは、JA福井県を通じて借り、今年度は1400株を植えた。「ゆくゆくは福井の特産品にしたい」と話す。

 池田さんは現在、開業を控え、様々な実務を学んでおり、イチゴ栽培は本業ではない。新規事業を模索するのは、本業の大幅な赤字が見込まれているからだ。

 鉄道事業の収支を見極めるうえで、目安となる指標に「輸送密度」がある。1日の1キロあたりの平均乗客数を示し、8千人以上は黒字、4千~8千は赤字だが存続できるレベルという。

 北陸3県でみると、コロナ禍前の比較で、石川県の「IRいしかわ鉄道」(金沢市)は約1万5千人、富山県の「あいの風とやま鉄道」(富山市)は約7700人。それに対し、ハピラインの区間は約5100人と「IRいしかわ」の3分の1ほどだ。

 15年3月の開業後、IRいしかわは、コロナ禍を除けば黒字決算を維持、あいの風は赤字決算が続くが、おおむね2億円前後だ。

 一方、ハピラインは、乗客数を維持しても毎年6億~7億円の赤字が見込まれ、11年間で約70億円の収支不足になる。富山、石川と同様、赤字には自治体の支援が入るとはいえ、県民が納得する事業活動をすることも求められる。

 福井県などが21年10月にまとめた経営計画によると、北陸線の県内区間の乗客は1日約2万人。ハピラインは来春の開業から11年間、この水準維持を目標とする。

 人口減少で乗客は約1万8千人になるとの予測があるため、同社は2千人を増やす対策として、①車両編成を減らし、運行本数は増やし、利便性を高める②新駅設置③駅舎の空きスペースを活用し、行ってみたくなる駅にする――などの対策を検討している。

 池田さんは、無人の森田駅(福井市)の空きスペースで、イチゴ狩りを開催したいと考えだ。駅周辺の催しと連携できれば、乗客は増えると期待する。

 新規事業の取り組みについて、福井大学の川本義海教授(地域・交通計画)は「並行在来線の黒字達成はどこも難しいなか、地域鉄道として何をやるべきかが課題になっている」といい、「鉄道社員として決まったことしかやらないのではなく、新たな取り組みを通じて変わろうとする姿勢は共感できる」と話す。(長屋護)

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