穏やかな老紳士の華僑、林伯耀さん 内に秘めた激情 そのわけは…
下地毅
林伯耀さんは、反物の行商をしていた両親のもとに京都府南丹市美山町でうまれた。いま神戸市で暮らし84歳になった老華僑は、言いぶりも身のこなしもすべてが静かな紳士だが、激情を内に秘めている。
1939年うまれの林さんが京都府北桑田郡宮島村(いまの南丹市美山町)での子ども時代をふりかえるとき、まっさきに思いだすのは「母親の涙と黒い犬」のことだ。
ある日、母親は林さんの手をひいて村の家々を行商に歩いていた。日本兵遺族の家の前を通りかかったとき、「シナ人」と家の男から罵声をあびせられて黒い犬をはなたれた。
母親と林さんはあぜ道を走って逃げた。母親の背中から商品の反物がボトボトと水田に落ちた。2人で水田に飛びこみ、ほえる犬におびえながら反物を拾いあつめた。
犬から逃げたあと、母親は、泥だらけの反物を谷川の水で洗い、ケヤキの枝に干しながら「アイゴー、アイゴー」と泣いた。
ポロポロ落ちてきた母の涙
林さんは、母親の目からポロ…
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