「メンツのためでは」袴田さん再審、検察の有罪立証方針に支援者憤り

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床並浩一 青山祥子 大平要

 1966年に起きた静岡県清水市(現静岡市)のみそ製造会社の専務一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)の裁判をやり直す再審公判。静岡地検は10日、3カ月の検討の末に有罪立証する方針を静岡地裁に伝えた。審理は長引く可能性があり、支援者らは「まともな判断ではない」などと憤った。

 「検察はとんでもないことをするだろうと思っていた。これはしょうがない。裁判で最終的に勝っていくしかない」

 姉の秀子さん(90)は10日夕、静岡市で開かれた弁護団の報告会見に同席し、はっきりとした口調でこう語った。「(私たちは)57年間闘っている。2~3年くらい、どうということはない」

 同会見には、支援者約20人が駆けつけた。ただ、3月の再審開始決定時のような高揚感はなく、検察への失望や怒りに包まれた。

 弁護側のみそ漬けの実験に協力してきた支援団体「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」の山崎俊樹事務局長(69)は「検察は袴田さんの有罪を立証できる見通しもなく、まともな判断ではない。裁判所が捜査機関の捏造(ねつぞう)を指摘しており、今回の検察の判断は県警や検察のメンツを立てるためではないか」と語気を強めた。

 事件発生からすでに57年。弁護団は、袴田さんの年齢などを踏まえ、早期の再審無罪を求めていたが、検察側の有罪立証によって公判の回数は増え、無罪確定まで時間がかかる見通しだ。「島田事件」など過去にあった死刑囚の再審4事件では、実際に有罪立証を試みたが、いずれも無罪判決になっている。

 支援者の佐野邦司さん(76)=静岡市=は「裁判所に5点の衣類は捏造だといわれているのに、検察の主張はでたらめだ。言葉は良くないが、袴田さんが亡くなるまで、裁判を長引かせようとしているとしか思えない」と批判した。

 再審では、確定判決で「犯行の着衣」とされた5点の衣類の評価が再び焦点となる可能性がある。

 衣類は事件から約1年2カ月後、みそタンクから見つかり血痕の赤みが残っていた。今年3月の東京高裁決定は弁護側の実験結果などに基づき、こうした状況で「衣類に赤みは残らない」と判断。捜査機関側が証拠を捏造した可能性が極めて高いと指摘した。

 ただ、検察側は今回、衣類などについて補充捜査。この日示した立証方針で、「衣類に赤みが残ることは何ら不自然なことではない」とし、捏造には「根拠がない」と否定した。

 国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル日本」の会員で支援者の一人、静岡市の鈴木律子さん(74)は知人から連絡を受け、検察の立証方針を知った。「検察がすんなり認めるとは思っていなかった。やっぱりと感じました」という。「『捏造』という言葉に反応してしまったのだと思います。過去の誤りを認めず、恥の上塗りで納得がいきません」と話した。

 「捏造を指摘されたことを必死で覆そうとしている。とにかく腹立たしい」。「浜松 袴田巌さんを救う市民の会」の寺沢暢紘・共同代表(77)は憤りを隠さない。「警察の捜査が正しいのかどうか、見極めるのが検察の役割のはずだ。原点に戻り、検察官の使命を考えてほしい」

■「1秒でも早く無罪を」支援…

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