第1回「悲しいよ」妻失った食卓、一人みそ汁すする 孤食はうつのリスクも

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三宅梨紗子

 6畳のたたみ部屋のテーブル。ご飯茶わん、焼き魚などが並べられ、コップになみなみと焼酎が注がれた。「いただきます」。小さな声が壁にはね返って響く。部屋の片隅にはおだやかな顔の女性の写真が飾られている。よく晴れた日の昼食。曇りガラス越しにわずかに日が差し込む。静かな部屋には、みそ汁をすする音がする。

 愛知県の男性(84)は20年前から一人暮らしだ。

 あの日は、いつもと変わらぬはずの朝だった。出がけに妻は「あいたたた、あいたた」と発したのを最後に大動脈解離で亡くなった。再婚同士で折り重ねてきた18年ほどの生活に突然ピリオドが打たれた。

 夫婦で暮らした住まいが広く感じ、単身用のアパートに引っ越した。70歳まで車の部品工場で働き退職。以前に社員寮の食堂で働いたこともあり、料理をすることはおっくうではない。

 それでも、加齢とともに買い物や自炊が負担になった。50メートル歩けば足がしびれる。自転車で近くのスーパーやドラッグストアに弁当や食材を買いに行く。

 部屋の片隅の古くなった炊飯器でご飯を炊かなくなってから久しい。3合を炊いて冷凍していたが、最近は、パックご飯をレンジで温めて食べる日々だ。

 最近、食卓に少し変化が生まれた。

つけっぱなしのテレビ 「しょぼんとするから」

 少し前に引っ越してきた近所…

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この記事を書いた人
三宅梨紗子
ネットワーク報道本部
専門・関心分野
福祉、多文化共生
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    増田ユリヤ
    (ジャーナリスト)
    2023年7月3日16時1分 投稿
    【視点】

    記事に登場する男性の食事をする姿があまりに切なくて、コメントを書こうと思ったがなかなか言葉が出てこない。80歳を超え、人生の総仕上げの時期のほとんどをひとりで過ごす。この男性だけでなく、似たような経験をしている人が少なからずいると思うと、ふ

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年7月3日22時45分 投稿
    【視点】

    衣服と食物と住居を指す、「衣食住」という言葉がある。暮らしの基本とされる衣食住は、その人らしさにかかわる生活の中心的なものであるといえるだろう。その人の好むやり方で衣食住の生活を営むことができるように、この記事とのかかわりでいえば、望まざる

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