ABCマート時給6%アップの舞台裏 ムダじゃなかった「1人スト」

有料記事経済インサイド

西尾邦明
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 物価高で生活が苦しい中、会社の業績は好調なのに、時給が下がる――。靴小売り大手のABCマートで今年初め、そんな出来事があった。会社に労働組合はなく、声を上げたのは一人のパート女性(47)。社外の労働組合に入って交渉した末、減給につながった新制度を撤回させ、さらに全国5千人のパート・アルバイトの6%賃上げを勝ち取った。30年ぶりの大幅な賃上げを人ごとにしないため、一人でストライキまでして臨んだ「春闘」。その舞台裏を追った。

 「ウソでしょ」。千葉県内の店舗で働くパート女性は昨年12月、耳を疑った。ガスも電気も食材も値上がりしているにもかかわらず、時給が1月から下がるというのだ。「私たち何も悪いことしていないのに」

 女性がこの店舗で働き始めたのは2014年。時給は950円だった。19年に最低賃金の引き上げに伴い50円上がり、能力に応じた加算給30円を含めて計1030円に。だがそれ以降、時給は増えなかった。靴関連商品の販売実績で21年に全国7位、22年は6位に輝いたが、もらえたのは表彰状と靴べらだけだった。

「あり得ない」 労基署に相談

 1月からの減給は、会社が従業員の評価方法を見直したためだった。女性は加算給が20円減り、まわりのパートも軒並み下がった。

 「あり得ない。絶対におかしい。売り上げも減っていないのに」。女性は労働基準監督署に相談した。労基署は会社側に話し合いの場を設けるよう働きかけてくれた。だが、面談した販売エリアの幹部は「弁護士も問題がないと言っている」と取り合わなかった。

 ABCマートに、労働組合はなかった。労基署の担当者が「問い合わせる価値があるかもしれません」と言って、教えてくれたのが「ユニオン」だった。

 ユニオンとは一人でも入ることができる労働組合だ。労働組合といえば企業別に組織されるイメージがあるが、実際には従業員一人でも外部のユニオンに加わり、会社側と労使交渉ができる。

 そうしたことを知らなかった女性にとって、労働組合のイメージは「デモをしていてちょっと怖い」。それでも、職場の年長者という立場もあり、「納得できない」と行動に出ることにした。

「僕らは会社に飼いならされているんだよ」

 ただ、周りの反応は冷ややか…

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    首藤若菜
    (立教大学教授=労働経済学)
    2023年6月28日21時31分 投稿
    【視点】

    たとえ一人であっても、声を上げることが大切だ、と感じさせる記事です。今回の成果を受けて、職場で仲間が増え、継続的に職場環境の改善が進むことを期待します。 今年の春闘は、30年ぶりの大幅な賃上げと言われる一方で、非正規で働く人々のなかに

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    たかまつなな
    (時事YouTuber・笑下村塾代表)
    2023年6月29日20時22分 投稿
    【提案】

    小さな声でもあげることで社会を変えることができるという貴重な例だと思う。 昨年イギリスに取材に行ったとき、教員が自分たちの待遇改善を求めて、大規模なストライキを行っていたのを目にした。その影響として大学は3週間程休みになっていた。でも

    …続きを読む