無人駅にするな 地元有志が観光拠点目指す

東野真和
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 【岩手】無人化され、がらんどうになった大船渡市三陸町越喜来(おきらい)の三陸鉄道三陸駅の駅舎を、再び観光客や地域住民の拠点にしようと、リスク覚悟で地元有志が立ち上がった。

 駅のホームにつながる三角屋根の建物には、高い天井の待合室とキッチンやトイレがあるだけだ。看板も棚もエアコンもない。

 24日、この場所を利用する観光交流施設「ニューオキライ(NEW OKIRAI)」のオープニングセレモニーが開かれた。40人ほどの市民に餅や菓子が振る舞われ、にぎわった。施設名は、新しい越喜来地区をイメージし、外国人客に親しめるように名付けられた。

 交通が不便だった頃、鉄道や駅は住民の悲願だった。三鉄開通後の1985年には、駅舎が観光センターとしてオープンし、観光の玄関口になった。大船渡市観光物産協会が同市から管理を委託され、乗車券や土産物などを販売。特産の干し柿をのれんのようにつるすなどして、地元に親しまれていた。

 しかし、道路が便利になって過疎化も進み利用者が減少。2011年3月の東日本大震災で被災した駅前の市街地の住民が高台などに移転すると、深刻さを増した。同センターは採算が合わなくなり今年3月、撤退した。

 地元の窮状に立ち上がったのが、地元漁師と結婚して観光ガイドを務める、フランス出身の佐々木イザベルさん(43)と、市内の観光会社員・中村純代さん(52)、地元の会社役員・片山和一良さん(72)だ。

 佐々木さんと中村さんは東日本大震災の支援をきっかけに、同市に移住してきた。片山さんは駅前で手作りの震災資料館を運営する。

 「このままでは寂しいが、自分ではどうすることもできない」と悲しむ地元住民の声を聞き、同センターの撤退前から「人が集える場にしておけば、利用価値はある」と3人は相談を重ねた。4月に「一般社団法人キラキラ越喜来」を設立。今月、市と賃貸契約を結んだ。

 「運営は厳しいのでは」と周囲は心配するが、それぞれに実績と人脈を持つ3人は手応えも感じている。

 佐々木さんは、ニューオキライを通じ、漁師の夫のホタテ養殖を船で見学するクルーズに外国人客らを案内するビジネスを広める。中村さんは市内の商業施設で集客イベントを数多く企画、実行してきた経験をいかして、現在は地元の海や文化財をめぐるツアーの企画を手がけていて、ニューオキライを起点にすることができる。2人はさらに、環境省が整備した青森から福島までの自然歩道「みちのく潮風トレイル」を楽しむ観光客が増えていることに注目し、「ニューオキライを休憩所として活用できる」と考える。すでに三鉄側に記念切符の発行など観光客誘致のためのコラボ企画を提案している。

 顔が広い片山さんは知り合いに声をかけ、日頃はニューオキライを憩いの場として自主運営するしくみを考える。当面は補助金に頼らず、住民が土日のみの当番制で管理しながら、カフェや地元産品・手芸品販売、稽古事や会合の場として利用した収益で運営することを目指す。

 24日のオープニングセレモニーでは、佐々木さんは「みんなで一緒に考えて、気軽に交流できる場所にしたい」とあいさつした。28日には東京から陶芸を教える人たちを招いたり、尺八の演奏会をしたりする。

 ただ、ほとんど何もない場所を改装して整備していくので経費がかかる。維持費として、家賃や光熱費も必要なため、今後は寄付を募りながら、備品を増やし、運営していくという。寄付の申し込みは、同法人(info@newokirai.comメールする)まで。寄付者は駅舎に名前を掲示する。東野真和

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