「この状況で…」音楽界の葛藤 侵攻下のチャイコフスキー国際コン

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編集委員・吉田純子
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 19日に始まった、世界3大音楽コンクールの一つとされるチャイコフスキー国際コンクール。ウクライナ侵攻のさなかに開催年を迎えたため、厳しい声を受け止めながらの開幕となった。創設時から政治的影響が色濃いイベントである一方で、音楽コンクールへの注目を高める契機ともなった存在感は変わらず、23カ国から236人が参加した。孤立回避と威信回復というロシア政府の思惑も指摘される現状で、今回の開催をどう受け止めるべきなのか。

「報じるべきではない」の声さえ

 「この状況下での開催は、さすがにないと思っていた」。新時代の才能を探し、毎年のように各国の国際コンクールに足を運ぶ音楽マネジャーたちも、今回は相次いで現地入りを断念している。

 芸術の営みを、政治的な文脈と安易に結びつけて語るべきではない。しかしチャイコフスキー国際は、ロシアという国そのものが主催者だ。「政治とは無関係」と言い切ることが、果たしてできるのか。音楽業界からは、そうした葛藤の声が漏れ聞こえてくる。「メディアは今回、結果を含めて一切報じるべきではない」と憤る音楽家もいる。

 チャイコフスキー国際が創設されたのは1958年。その前年にはフルシチョフ政権が世界初の人工衛星を打ち上げていた。

 米ソ間で軍事や科学技術での開発競争が繰り広げられるなか、旧ソ連が伝家の宝刀としたのが音楽だった。国家の威信を懸け、自国の国民的作曲家の名を冠したコンクールを立ち上げ、文化の厚みを世界に突きつける。リヒテルやギレリスといった、世界の誰もがひざまずく巨匠たちを擁する我が国が、米国に負けるはずなどない――。

 ところが、第1回で優勝をさ…

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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2023年6月24日9時33分 投稿
    【視点】

    今回のチャイコフスキーコンクールへの参加者が批判されるべきではないとの林田氏と亀山氏のコメントが引用されているが、私は反対だ。今年のこのコンクールは明らかにプーチンの政治的意図のもとに開催されている。組織委員長はプーチンと親交の深いゲルギエ

    …続きを読む