リニアの残土が重要湿地に 研究者「見直しが望ましい」 岐阜・御嵩

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保坂知晃 伊藤智章
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 リニア中央新幹線のトンネル工事を巡り、JR東海岐阜県御嵩町にある国選定の重要湿地に残土を処分する計画を進める。自然保護と大型開発は両立するのか――。25日投開票の御嵩町長選で選ばれる新町長は、この問題でJRと向き合い、判断を求められることになる。自然環境の保全に詳しい研究者は、この問題をどうみるのか。愛知学院大学の富田啓介准教授(自然地理学)に聞いた。

 ――御嵩町の「美佐野ハナノキ湿地群」に残土を運び込む計画について、意見を聞かせてください。

 湿地群をどのようにしていくかは住民と事業者、行政が十分に議論し、決定していくべきものだと思っています。ただ、生物多様性の保全や地域の将来を鑑みた意見を言うなら、研究者としては計画の見直しが望ましいと思います。

 ――湿地にどのような影響が考えられますか。

 JRの計画とハナノキの立地を照合すると、80本ある成木のうち、24本程度が伐採されると推測できます。個体数の減少は雌雄のバランスを損ない、花粉と種子ができる木の本数を減らす可能性があります。

 ――JRはハナノキの群生地は避けるとしています。

 数百年レベルでみると、ハナノキは美佐野地区の湿地などを移動しながら個体群を維持してきたと考えられます。環境の変化に合わせ、より生育に適した場所で芽が育ち、時間をかけて群生地が移ってきたのです。

 受け入れ候補地の町有地と民有地にそれぞれある谷間が、今後の環境の変化によって生育の適地になる可能性もあるでしょう。それを埋めてしまうと適地が少なくなり、将来的な個体数の縮小や衰退が懸念されます。

 したがって、現在の群生地を避けても将来的な影響までは避けられません。

 ――JRは幼木を移植する計画です。

 移植による保護は20~30年前の古い考え方です。現在の生態学の一般的な考え方では遺伝的な多様性の保全の観点から、慎むべきこととされています。

 例えば、ハナノキの専門家である筑波大学の佐伯いく代准教授の研究によると、美佐野地区のハナノキと、大きな自生地がある岐阜県中津川市長野県飯田市のハナノキとは遺伝的な系統が違います。

 美佐野地区のハナノキを他の系統の自生地に移植すれば、遺伝的な攪乱(かくらん)が生じます。また、各地のハナノキは個々の湿地の環境に適応していると考えられるため、移植先の環境に適応できるとは限りません。

 さらに、一部の個体が別の場所に持ち出されると、持ち出された側の自生地の遺伝的な多様性が低くなって、環境変化に適応しにくくなったり、繁殖力が落ちたりする懸念があります。

 ――遺伝的な系統が多様であることが、将来的な環境変化にも柔軟に対応できるということですね。

 そうです。種の生存の可能性を高めるためにも、遺伝的な系統の多様性を保つのは大変重要なことです。

 ――美佐野地区にはハナノキ以外にも希少な動植物が生息しています。

 東海地方の固有種であり、環境省のレッドリストで準絶滅危惧とされるシデコブシやミカワバイケイソウ(絶滅危惧Ⅱ類)が自生しています。希少な鳥類としてはミゾゴイやサシバの生息(ともに同)も確認されています。

 ハナノキを含め、これらの動植物を保全するためには、木屋洞川と押山川に挟まれた一帯のすべてを湿地群とみなし、保全するのが妥当だと考えます。

 ――重要湿地の選定の意義とは何でしょうか。

 国内の多種多様な湿地生態系…

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