仏教を産業界に翻訳する 僧侶・松本紹圭が企業で進める「社内巡礼」

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僧侶・松本紹圭

Re:Ron連載「松本紹圭の抜苦与楽」 第1回

 私はお寺をもっていない。

 僧侶のなかには私のように、得度をしてもお寺をもたずに僧侶の道を歩む人がいる。

 日本にはかつて、半僧半俗の身で各地を巡り、人々の苦悩に寄り添い信仰を広めた「ひじり」と呼ばれる僧侶が存在した。自ら市中に分け入って、多様な人々と共に課題に取り組むひじりの姿に、私自身憧れてきた。空也上人や一遍上人はあまりに有名だが、ひじりを現代語訳するならば、フリーランス僧侶となるだろうか。

 近代以降、僧侶の姿は世襲で住職を継ぐものや、修行僧として寺に入ることが主流となった。

 かつてそのようなひじりが存在したように、僧侶の道はもっと多様にあっていいんじゃないか。そうした思いを抱きつつ、2500年前から受け継がれる仏教が現代社会でどのように生かされるのか、現代に有効な翻訳の仕方を探しながら僧侶として生きてきて、はや20年が経つ。

 現在は、主には企業で働く人を対象に、「産業僧」として一対一の対話を行っている。

 対話の内容は会社と共有しないことを前提に、オンラインで話をする。許可をいただいた上で音声を録音させてもらい、AI(人工知能)による音声感情解析ツールを使って、会社の風土や職場の状態を見る取り組みを続けている。

「モンク・マネジャー」を置きたい―米国から届いた依頼

 そうした産業医ならぬ「産業僧」が生まれた背景には、数年前、アメリカ人弁護士の友人から届いた切実な声があった。

 米ワシントンで法律事務所を経営する友人から、「オフィスに駐在する僧侶を派遣してもらえないか」と相談を受けたのは2020年の年明けのことだ。

 聞けば、スタッフはみな多忙…

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2023年6月27日10時52分 投稿
    【視点】

    1975年生まれの私はロスジェネ世代のど真ん中です。それでも、むりやりにでも、夢や目標みたいなもの、いつだって胸に抱いて生きてきたつもりです。振り返れば、最初に憧れたのは昭和の男の子あるあるなプロ野球選手。そんなの無理だって気づいてからも、

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Re:Ron

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対話を通じて「論」を深め合う。論考やインタビューなど様々な言葉を通して世界を広げる。そんな場をRe:Ronはめざします。[もっと見る]