NHKの大河ドラマ「どうする家康」には、徳川家康が人質時代などを過ごした駿府(静岡市)や天下統一の足がかりとなった浜松城(浜松市)など、静岡県内が主要スポットとして登場する。ゆかりの地を訪れてもらおうと、鉄道各社があの手この手を繰り出している。

 帰宅客で混む5月12日夕の静岡駅コンコース。浜松市の「出世大名家康くん」などゆるキャラ3体が現れ、写真を撮ろうと人だかりができた。遠州地域9市町とJR東海の関係者は、浜松城などドラマで登場した場所を紹介したパンフレットを配って観光PRをした。「大河ドラマ、見ています」と答えながら受け取る人もいた。

 JR東海は4月下旬から約1カ月間、列車内の広告すべてを9市町の観光ポスターにして、家康ゆかりの地を紹介する「テーマトレイン」を東海道線の熱海―豊橋間で走らせた。このころは、武田信玄に大敗した「三方ケ原の戦い」がドラマで登場するなど浜松が舞台だった。JR東海の担当者は「放送のタイミングを意識しながら企画した」と説明する。

 駅を発着点にしたイベント「さわやかウォーキング」でも、今年は「どこ行く家康コース」として、家康生誕地の愛知県岡崎市のほか、静岡市や浜松市などでゆかりの地を巡るコースが設けられた。

 5月14日には焼津市で開催。家康が建立したとされる本殿が残る焼津神社などを訪ねる約8キロのコースに、約430人が参加した。焼津神社では、参加者らが市観光協会の観光ボランティアから、家康と神社のつながりについて説明を受けていた。名古屋市から参加した辻祥太さん(60)は「岡崎なら八丁みそ、浜松ならギョーザなど、各地の名物を食べるのが楽しみ。家康も味わった食べ物に出合えるかもしれない」。富士宮市の渡瀬秀俊さん(50)は岡崎市のコースも歩いたといい、「日本史が好きで、家康ゆかりのスポットを巡ってみたかった」と話した。

 静岡鉄道はグループを挙げて集客を目指す。「またとない商機」と、放送が始まる1年近く前に、社内やグループ各社にアイデアを募った。家康や正室・瀬名をイメージした御膳や土産物など、実現したものは盛りだくさんで、フェイスブックやインスタグラムに集約してPRしている。

 鉄道関係では家康の甲冑(かっちゅう)「金陀美具足(きんだみぐそく)」や肖像画などを描いた金色の「家康公ラッピングトレイン」を走らせている。車内には家康の年表や久能山東照宮の写真などを多くあしらった。

 「静鉄ホテルプレジオ静岡駅南」(静岡市駿河区)では壁に葵の紋を施した部屋に泊まれ、久能山東照宮や日本平ロープウェイ、静岡市の大河ドラマ館の券などがセットになった「徳川家康公コンセプトルーム」を1室限定で売り出した。1月から予約を受け付け始め、最初の3カ月間で約120件の予約が入ったという。

 大型連休中、日本平と久能山を結ぶ静鉄の日本平ロープウェイは、乗車までに3時間の待ち時間になったという。静鉄の飯塚紳・グループ営業推進課担当課長は「『家康』ブームを一過性に終わらせず、長く続けられる取り組みも考えていきたい」と語る。

 遠州地域に路線がある遠州鉄道と天竜浜名湖鉄道も、家康ゆかりの地やドラマをPRするラッピング電車を運行している。遠鉄は「乗った人に高貴な気分を味わって欲しい」と、車両内に葵の紋をあしらった紫色の「殿のシート」を設けた。天竜浜名湖鉄道は掛川など7駅でスタンプを集めて、家康関連のグッズなどが当たるスタンプラリーもしている。両社は「地域やまちなかの活性化につなげたい」(遠鉄)、「沿線にあるゆかりのスポットに足を運んでもらいたい」(天竜浜名湖鉄道)としている。(小山裕一)

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 静岡県内ではこの数年、「おんな城主 直虎」(2017年)や「鎌倉殿の13人」(22年)などで大河ドラマの舞台になった。放送に合わせ、地元には大河ドラマ館が開設された。「どうする家康」では愛知県岡崎市と静岡市、浜松市にドラマ館が設けられている。JR東海の担当者は「沿線にはドラマ館のほか、ゆかりの地が数多くあり、鉄道で訪れてもらおうと様々なイベントやキャンペーンを用意した」という。

 「鎌倉殿」で登場した伊豆の国市によると、ドラマ館に伴う市内の経済波及効果は16億円。飲食サービス業や宿泊業などの「対個人サービス」の効果が11億円を占め、市は「コロナ禍で大きな打撃を受けた地域の観光産業に貴重な潤いをもたらした」としている。

 「直虎」のドラマ館があった浜松市の調査では、「直虎」に伴う県内の経済波及効果は248億円で、市内に限ると207億円だった。浜松市は「家康」の放送終了後に経済効果を公表する予定だ。

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