ボディータッチを避ける日本社会 社交ダンスで知った「触れる」作法

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聞き手・高重治香
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 コロナ禍で「人に触れる」ことをなるべく避けようとする空気が広まりました。その経験は、「触れられないことがどんなに寂しいのか」を教えてくれたと、文化人類学者の板垣明美・横浜市大准教授は語ります。「大人の身体接触」の文化差について聞きました。

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 新型コロナウイルスが流行する以前から、日本では、ハグや握手など大人同士の身体接触の文化はあまり盛んでなかったと感じます。小さい子どもには、手をつないだり抱きしめたりしますが、大人同士だと気恥ずかしさがあり、体に直接触れるより、お辞儀やこまやかな言葉で親しみや敬意を表すことが多いです。

 私が以前調査したマレーシアの地域では、互いの手のひらに触れた後、その手を自分の胸にあてるサラームというあいさつがあります。マレーシアは東西から人が行き来する文明の十字路で、言語も多様。人との関係に緊張感がある中で、「あなたを攻撃するつもりはない」と示し、短時間で打ち解けるためにこうした触れ合う所作が発達したのではないでしょうか。米国や欧州でのハグや握手にも、同様の意味があると思います。

 日本はそれらの国々ほどは多民族・多言語国家ではありません。常に知らない人との距離を測る必要はなく、他人を「自分とは関係のない人」とみなすことができてしまう。だから満員電車や行列でくっついても平気です。

研究の一環で社交ダンスを踊る板垣さん。ダンスの世界チャンピオンと踊った時、人に触れることがいかに繊細な行為かを実感したといいます。

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 ハグやサラームといった身体…

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    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2023年6月13日9時54分 投稿
    【視点】

    「触れる」ことは日本社会で益々難しくなってきていると感じます。この記事のいうように、触れることは非常に大事なことで、海外の方と会うと、ハグや握手を含め、必ず挨拶で何らかのボディータッチをします。逆にそれをやらないと、違和感を与えることになり

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