戦時中「猛獣処分」せず園長奮闘 甲府市立動物園が舞台の絵本出版

米沢信義
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 戦時中、全国各地の動物園の猛獣が行政や軍の命令で殺処分された。だが、甲府市の動物園長は、命令に反して処分を実行しなかった。そんなエピソードも織り交ぜた絵本「甲府の動物園物語」を、山梨県南アルプス市出身のイラストレーター三井ヤスシさん(46)が出版した。甲府市に絵本を寄贈し、「生命と平和の尊さを子どもたちにも考えてほしい」と語った。

 絵本の舞台は、100年以上の歴史を持つ甲府市遊亀公園付属動物園。2代目の園長で獣医師の故・小林承吉さんを主人公に、空襲などの被害を受けた動物園の立て直しに、家族らと取り組む姿が描かれている。

 1943年、当時の行政や軍は「空襲などでオリから逃げ出し危害を加える恐れがある」として、ライオンやゾウなどの命を奪う「猛獣処分」を命じた。

 上野動物園など全国の動物園で多くの動物が殺処分されるなか、園長は「オリが頑丈なので大丈夫。オリが壊れるほどの空襲なら、猛獣は死んでいる」などと交渉し、動物たちは殺されずに済んだ。

 しかし、深刻なえさ不足のため、人気者のゾウやライオンは死んでしまい、残った動物も45年7月6日深夜の甲府空襲で、オリごと火に包まれた。

 園長は戦後、復興をめざし、家族とともに私費を投じて動物とえさを集めた。52年には運営を市に移管し、市立動物園として再出発を果たした。絵本の最後は、「動物園は平和の象徴。平和っていいね」という語り部の言葉で締めくくっている。

 作者の三井さんは、旧八田村(南アルプス市)出身で、北海道旭川市に拠点を移して活動するイラストレーター。数年前、戦時下の甲府の動物園では「猛獣処分」が実行されなかったことを知り、「改めて子どもの頃慣れ親しんだ動物園に興味がわいた」という。帰郷の折に、図書館などを回って資料を探し、甲府市で動物病院を営む、承吉さんの遺族にも取材した。

 三井さんは23日、承吉さんの孫で小学校教頭の小林勤さん(57)とともに甲府市役所を訪れ、市に50冊を寄贈した。「ウクライナなど世界で暴力の応酬があるなか、戦争が起こると子どもや動物など弱い立場にしわ寄せがいくことを痛感している。絵本を子どもたちが読んで、歴史を学び未来への力になれば」と思いを語った。

 絵本は各小中学校の図書館に置かれる予定だ。

 動物園は改修工事のため、現在休園中で、2027年度のリニューアルオープンをめざしている。絵本は1100円(税込み)。春光堂書店など県内の一部書店で販売している。(米沢信義)

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