東海道新幹線「自動運転」の狙いは? 県内で走行試験

大平要
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 JR東海が、東海道新幹線の自動運転実現に向け、静岡県内で走行試験を繰り返している。ただ、実現しても運転士なしで走れるわけではない。何が狙いなのか。

 11日未明。浜松―静岡間で行われている自動運転車両の走行実験が、報道陣に初めて公開された。浜松駅に入線した最新車両の「N700S」に乗り込むと、運転席を映し出すモニターが置かれていた。

 発車時刻になると、運転士は運転台の緑色のボタンを押した。運転士はその後、左手をブレーキレバーに添えているだけ。速度を調節する「マスコン」と呼ばれるレバーには、走行中一度も触れなかった。列車は滑らかに加減速を繰り返し、約26分後に静岡駅に到着。運転士の操作なしに、ホームで停止した。

 到着時刻は予定より2秒早く、停止位置は9ミリ手前にずれただけだった。新幹線事業本部長の辻村厚常務は「まずまずの結果を出せて良かった」。

 JR東海が、自動運転車両の走行実験をはじめたのは2021年11月。営業運転終了後の夜間、これまで数十回実施したという。現在、開発は社員8人体制。日立製作所と東芝インフラシステムズもシステム開発に参加している。

 導入は、28年度を予定している。車両の更新に合わせて順次、対応車両を増やしていくという。

 ただ、すでに一部の新交通システムやモノレールなどで導入しているような「無人運転」ではない。国土交通省の分類では、運転士が常に運転席に座る「半自動運転」だ。

 JR東海は「業務効率化」を掲げているが、実現しても、運転士1人と車掌2人が乗り込む現在の体制が、目に見えて変わるわけではなさそうだ。

 だが、辻村常務によると「運転士と車掌の役割が大きく変わる」という。

 運転の負担が減ることから、運転士は今は車掌が行っているホームの安全確認や、ドアの開閉を担う。すると、車掌は乗客の案内や車内警備に時間を割ける。このため、乗客サービスや警備のために乗っている複数の要員が、業務の見直しで減らせる可能性がある。

 辻村常務は「乗客とのコミュニケーションが増え、安全性も高まる。コスト削減効果も、決して小さくないと思う」と話す。業務マニュアルや配置の見直しはこれから。どれだけ効果が出るかはまだ見通せない。

 開発で得た、同じ速度で自動走行する仕組みや、駅での自動停止装置などは、すでに導入済みだという。開発陣が目指すのは、省エネ走行や乗り心地の向上だ。「運転士によるばらつきを、なくしていきたい」(福島隆文車両課長)という。

 実現に向け、極端な気象条件など、外的環境への対応力を高めていく。また、より早くスムーズな司令所からの情報伝達の仕組みづくりを目指す。

 JR東日本は30年代半ば、上越新幹線で添乗員付きの無人運転実現を目指すと発表した。東海道新幹線はどうするのか。

 辻村氏は「異常時に、指令所と情報をやり取りしながら迅速に対応するため、運転士を置くやり方にしている。ただ、(無人運転の)技術についてはしっかり勉強していきたい」。(大平要)

     ◇

〈自動運転のしくみ〉技術のカギを握るのは、運転台のモニターに映る「運転曲線」と呼ばれるグラフだ。横軸は列車の位置、縦軸は速度を表しており、各地点の制限速度があらかじめ示され、各駅には発着時刻が設定されている。

 運転曲線は、制限速度を守りつつ次の駅に時刻通りに到着できるよう、列車に搭載されたコンピューターが計算して作成する。列車はこの曲線にしたがって、自動で加速、減速する。

 突発的に徐行が必要な区間が生じると、その区間の制限速度も考慮して瞬時に再計算して運転曲線を引き直す。こうして「最も省エネで、乗り心地のよい速度を自動で調整していく」(担当者)という。

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