再エネ会社が自前の送電線 全国屈指の風力発電適地の北海道北部

新田哲史
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 年間を通して安定して強い風が吹き、全国屈指の風力発電の適地として知られる北海道北部に新たな送電線(約80キロ)が完成した。手がけたのは、風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールディングス(東京)などの出資会社。送電線の容量不足から発電しても電気を送れないジレンマを抱えており、国の支援も受けて、風力発電事業者が自ら整備に乗り出した。

 ユーラス社とコスモエコパワー(同)などが出資する「北海道北部風力送電」が整備した。2018年に着工し、今年3月に稚内市から中川町まで1市4町にまたがる約80キロの送電線が完成した。鉄塔の数は269基にのぼる。

 政府は30年度に発電量に占める再生可能エネルギーの割合を36~38%にする目標を掲げる。21年度の実績のほぼ倍にあたり、達成には、風力発電の容量を現状の約5倍に増やす必要があるとされる。

 北海道は全国の陸上風力のポテンシャルの5割を占める「風力発電王国」だが、主要な送電網は道央以外には空き容量がほぼないのが現状だ。

 北海道電力は非常用の空き容量を開放するなどの取り組みを進めるが、再エネのさらなる普及には送電線の増強が欠かせない。

 とくに道北は道内でも風が強い一方、人口が少なく送電線の容量が小さいため、対策が急務となっていた。13年に政府が風力発電用の送電線を整備する事業者を募ったところ、手を挙げたのが北海道北部風力送電だ。総事業費は1050億円で、うち4割は経済産業省が補助した。

 送電線の整備維持は大手電力の子会社が行うのが原則で、その費用は電気料金から回収する。今回のように、再エネ事業者が送電線を整備するのは全国的にも珍しい。

 送電線にはユーラスなど3社が道北9カ所で建設している127基の風車が今年4月から約2年かけて順次つながる計画。風力で発電した電気は送電線の終点となる中川町で北電の送電網に接続。そこから札幌方面へと届けられる。

 すべてつながれば総出力は54万キロワットで、現在の道内全体の風力発電とほぼ匹敵する。道内の風力発電の規模は倍増し、都道府県別で青森県秋田県を抜いて1位になる可能性があるという。道内の電力供給に占める風力の割合は現在4%程度だが、これも倍近くになりそうだ。ユーラスの道内での風力発電の規模も現在の約19万キロワットから25年春には約65万キロワットになる見通し。

 ただし、風力発電には、天候で出力が左右されやすいという弱点がある。送電量を一定に保つため、北部風力送電は、豊富町変電所に世界最大級の蓄電池(容量は72万キロワット時)を新設した。電気自動車に換算すれば約1万台分にあたる容量だ。今月16日の竣工(しゅんこう)式でユーラスエナジーの諏訪部哲也社長は「道北は恵まれた風況、なだらかな丘、広大な土地の3点がそろい、安価な風力発電に最適な環境だ。日本のエネルギー政策を考えれば、こういった土地にこそ再エネ電源を作るべきだ」と語った。

 北部風力送電は、ユーラスなど発電会社から利用料を受け取り、送電線の整備・維持費をまかなう。ただ、再エネ発電会社が送電網の整備まで手がけることは採算悪化のリスクもあり、再エネへの投資が進まなくなる恐れもある。ユーラスの諏訪部社長も「発電事業者だけが全てをやっていくのは、全国で展開するにあたって限界がある」と指摘する。政府は現在、送電線の整備費の一部を電気料金から集める仕組みづくりを検討している。(新田哲史)

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