「ほぼ死ぬ」ネコの感染症、コロナ禍経て劇的改善 でもまだ残る課題

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田村建二
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 「かかったらほぼ死ぬ」と言われていたネコの感染症への治療が、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が結果的に追い風になるなどして、劇的に改善している。飼い主にとって朗報だが、動物の病気への治療ならではの事情もあって、現場ではいくつもの課題が残っている。

 昨年5月。兵庫県内に住む生後11カ月でオスのミックスネコ「だいちゃん」が、「かみよし動物病院」(神戸市)に運びこまれた。

 生まれて5カ月ごろから目に炎症が起き、角膜が白く濁るなどしていた。地元の病院で診察しても原因が分からず、ずっと治っていなかった。ときどき発熱もしていた。

 だいちゃんはやがて食欲がなくなり、立ち上がるのもやっとの状態になってしまっていた。

 神吉剛院長は、だいちゃんのこれまでの経過や現在の状況から「猫伝染性腹膜炎」(FIP)と診断した。新型コロナと同様、コロナウイルスという種類のウイルスによって引き起こされる感染症だ。

 この病気は少し前まで「致死率が非常に高く、発症したらほとんど助からない」とされていた。だいちゃんも、解熱剤などの対症療法しかなかった以前であれば、このまま状態がさらに悪化して死んでもおかしくなかった。

 でも、このときは違った。

「レムデシビル」で食欲が戻った

 神吉さんは、動物用の「レムデシビル」という注射薬で治療を始めた。レムデシビルはもともと、エボラ出血熱の治療薬として開発が進められていたが、新型コロナにも効果を示すことが分かり、日本では2020年5月にコロナ治療薬として特例承認された。この薬の動物向けのものが使えるようになっていた。

 レムデシビルを点滴すると、翌日には食欲が戻った。目の炎症も改善が認められた。

 症状が良くなったのを受けて、3日目からは「GS-441524」という経口薬に切り替えた。レムデシビルと同じ会社が開発し、化学的にほぼ同じ性質を持つ飲み薬で、感染した細胞の中でウイルスが増殖するのを妨げる。どちらも、英国の会社から個人輸入したものだ。

 その数日後、だいちゃんはまた体調が悪化した。神吉さんは、GS-441524に対する薬剤耐性が生じている可能性があると判断し、やはり新型コロナの治療薬として実用化された経口薬「モルヌピラビル」を使うことにした。

 こちらも海外から個人輸入した、人間の治療用だ。動物の治療では、動物用医薬品として農林水産相が承認した薬もあるが、人間用の薬を動物の治療に利用することが珍しくない。

 だいちゃんの体調は再び改善。3週間ほどで走れるようになった。その後も経過は順調で、もともと1キロ台だった体重もいまは3・5キロほどに増え、ふらつきは多少残るものの元気に過ごしている。

 同じような報告は、海外からも出ている。

 ニュージーランドのメディアは4月、FIPにかかった7歳のメスのバーマンの「アーニャ」がモルヌピラビルを服用することで、「100%致命的な感染症から驚異的な回復を遂げた」と報じた。

死因の3位との報告も

 FIPは、ネコの腸に感染するウイルスが変異して全身の免疫細胞にうつるようになり、さらに何らかの要因が加わることで、発熱や体重減少、腹水をはじめ、神経や目、皮膚などにさまざまな異常が起きる感染症。症状はネコによってさまざまだ。

 がんや腎臓病に続き、ネコの死因の第3位を占めるという報告もある。従来はステロイドやインターフェロンといった薬で治療が試みられてきたが、効果は不十分で、発症したほとんどのネコは助からず、FIPはネコにとって「不治の病」とも呼ばれていた。

 その状況が大きく変わり出したのは、18年だ。米国の研究チームが、FIPの治療を目的に開発された「GC376」という化合物を用いて、発病したネコに治療効果があることを論文発表した。

 翌年にも同じグループが、今…

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