第3回「強すぎる」科学信仰 コロナ対策、行動経済学者・大竹文雄氏の懸念
政府コロナ対策分科会の経済系委員で、早くから対策緩和を訴えてきた大竹文雄・大阪大特任教授は、「コロナ対策は専門家だけで決められる問題ではなかった。日本は科学信仰が強すぎる」と指摘します。
――コロナを5類にすべきだと意識したのは、いつごろでしたか。
昨年、オミクロン株が主流になった時から考えていました。ただし、特措法の対象からは外さず、行動制限を選択肢として残す「5類相当」という形です。
ウイルスがさらにどう変異するのか、分かっていなかったからです。
その後、岸田(文雄)首相は「まだ当分の間は5類にしない」とおっしゃった。そうすると、専門家が「5類に」と言っても意味がないので、感染対策を実質的にどう緩和するか議論してきました。
――緩和に向けて、専門家の間で最初に行動制限に反対しました。どんな理由からだったのですか。
昨年1月25日の政府の基本的対処方針分科会で、当時実施していたまん延防止等重点措置の延長に反対しました。
オミクロン株による「第6波」が始まって約1カ月が経ち、それまでと比べて重症化率が低いという数字が出てきたので、「もう行動制限の根拠はないのではないか」と主張しました。
重点措置の実施条件として、コロナが季節性インフルエンザと比べて「肺炎の発生頻度が相当程度高い」とあり、満たしていないと考えました。
――昨年3月、別の感染症系の専門家たちが、オミクロンはインフルよりも致死率が高いという暫定的な見解を示しました。
私にとって「相当程度」高いのかどうかが論点でした。わずかな差について「相当程度」というのは無理があると思っていました。
――この時期、経済系と感染症系の専門家の間で意見の一致が難しくなったと聞きます。どう対応したのですか。
それ以前から、行動制限を重視する委員と、行動制限より医療提供体制の充実を主張する委員との間で、意見の違いはありました。
それでも、尾身(茂)先生が専門家の意見を一つの案にまとめ、分科会として政府に提言していました。
提言は数枚の資料で、情報量は少なく、政策提言に近いものでした。分科会の影響力を高めるため、行動制限を重視する意見を中心に全員一致させる「ワンボイス」をめざしていたのだと思います。
科学だけで決められない問題
ただ、この時は一つの意見と…