震災復興の象徴、三陸道全通 完成が終わりではない、どう生かすか

西晃奈

 東日本大震災からの復興の「リーディングプロジェクト」として国が進めた三陸沿岸道路(仙台市―青森県八戸市、359キロ)の全線開通から1年数カ月が経った。岩手県内の区間は213キロ。その全通は観光や物流など様々な面で効果が出ている一方で、解決すべき課題も見えてきた。道路は完成したが、「終わり」ではない。どう「生かす」か。県内の区間を走り、考えてみた。(西晃奈)

 久慈港(久慈市)から約3キロ沖の久慈湾に巨大な6基のいけすが浮かぶ。ピチピチと跳ね上がる銀ザケが朝日で黄色く染まった。

 市漁業協同組合は2018年、新たなブランドとして銀ザケ「久慈育ち琥珀(こはく)サーモン」の養殖を始めた。

 水揚げした魚はほとんどが宮城県石巻市の加工場に運ばれる。全通する前は運搬に6時間かかったが、今では4時間に。同漁協の営漁係長・皀(さいかち)秀明さんは「鮮度が良いうちに加工でき、品質が保たれる」と喜ぶ。

 久慈港で一番の漁獲量を誇った秋サケは毎年2千~1500トンで推移していたが、19年度は499トンに激減した。21年度は91トンとさらに減り、漁獲高は3年前と比べ約7億5千万円減。養殖に力を入れることが急がれる中、皀さんは「三陸道を生かし、各地に売り出したい」と意欲を見せる。

 観光の面でも効果が出ている。19年に開業した陸前高田市の道の駅高田松原では、昨春の大型連休に1日あたりの来場者数が9100人となり、過去最高を更新した。県外からの来訪者が6割を占めた。

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 久慈市の三陸道久慈北インターチェンジ(IC)を下りてすぐ。広大な駐車場と黒色を基調とした平屋建ての建物が見えてきた。

 19日に開業した道の駅「いわて北三陸」だ。

 久慈市、洋野町、野田村、普代村の久慈広域4市町村が連携して整備した。

 道の駅は所在地の自治体が整備することがほとんどで、「複数の自治体で団結するのは珍しく、そこが肝だ」と市の担当者は言う。

 メリットが語られる三陸道の全通だが、交通網の整備で都市部に人口や産業が吸い取られる「ストロー現象」への対応が課題だとする声は小さくない。

 全通すれば、観光客や交通輸送の流れが変わると予想されていた。県北地域にとっては、大きな街である八戸への通過点にならないかという危機感があった。

 実際に、三陸道と並行する国道45号は車の通行が減った。普代村では普代ICができた2013年以降、国道沿いで発展してきた商店街が閑散とした。菓子店を営む男性は「以前は道路を走っている途中に立ち寄ってくれるお客さんがいたのだが……」。廃業する店舗が増えているという。

 こうした危機感が背景にあり、久慈市の遠藤譲一市長は14年12月、3町村に、連携して道の駅を整備することを持ちかけた。

 この時期、4市町村には大勢の観光客が訪れていた。13年の春から秋に放送されたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」のメインロケ地だったからだ。

 県によると、放送前の12年と比べ、4市町村とも観光客数が増え、13年度は前年度より67万人多い計231万人が訪れた。一方で、19年の4市町村の観光客数は、12年度とほぼ同じ計約170万人に減少し、コロナ禍でさらに落ち込む。

 新施設は、三陸道から立ち寄りやすい場所に設置し、大型産直スペースや特産品を使った飲食施設など各地の魅力を集め、地域の回遊につなげる。「あまちゃん」で主人公たちが住んでいた架空の街「北三陸」を名称にもした。

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 三陸道を生かすカギ。その一つは、連携のようだ。

 「あまちゃん」放送から10年にあわせ、PRキャラバン隊が3月にできた。久慈市、洋野町、野田村、普代村、田野畑村の5市町村と県、商工観光事業者など32団体で構成している。

 大型連休に合わせて地域の道の駅や観光施設で「あまちゃん」や北三陸にちなんだ飲食を提供し、9月には久慈市と東京都新宿区でそれぞれ「あまちゃん10周年スペシャルコンサート」を開き、地域をPRする。

 一つの自治体だけでは宿泊施設や観光資源は少ないが、タッグを組めば――。

 久慈市の遠藤市長は「それぞれ小さな自治体が単独でやるより、協力してまとまることで魅力づくりができる」と話している…

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