第14回主語に「政府は…」繰り返すNHK 国会PVの上西教授の不満

有料記事NHK考 公共放送を問う

聞き手・中沢絢乃

 法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子さん(57)=労働問題=は、質問の趣旨に正面から答えない国会答弁を「ご飯論法」と分析し、国会審議を街角で上映する「国会パブリックビューイング(PV)」に取り組むなど、国会とその報道に問題意識を持つ。なぜNHKが国会の様子を伝える必要があるのか、どんな問題を感じているか。そして公共放送の伝え方は、民主主義にどんな影響を与えるのか。話を聞いた。

うえにし・みつこ

1965年生まれ、奈良市出身。日本労働研究機構(現・労働政策研究・研修機構)の研究員を経て、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研究科教授。専門は労働問題。「朝ごはんを食べたか」と聞かれて、パンを食べているのに「(米の)ご飯は食べていない」と答えるようなごまかしを「ご飯論法」と指摘し「2018ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に選出。著書に「国会をみよう」(集英社クリエイティブ)など。

 ――NHKの報道をどう見てきましたか

 正直、最近はNHKのニュースを見る気になりません。「政府は……」と繰り返す報じ方に違和感があるからです。特に問題だと思っているのが、国会の報道です。

 国会では、政府の姿勢を国会議員がただします。議員、特に野党は政府に対して問題点を指摘する。それに政府側が答える。その両方がやり取りの形で示されなければ、一体何が問われているのか、それに政府はどう答えたのかを、聞き手は判断できないですよね。

 テレビは秒単位で中身を圧縮してニュース映像を作るので、どうしても要点だけを取り出してつないだ映像になるのもやむを得ない面はあると思います。ですが、NHKの国会報道を見ていると、「誰がどういうことを問うたのか」をものすごく圧縮した上で、「政府は……と答弁しました」「政府は……という考えを示しました」という伝え方をすることが多い。これでは政府の見解を伝えるだけの政府広報と変わらない形になっています。

何が問題であるのか伝わらない

 具体例をお示ししたい。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出について、NHKが2021年4月12日に流したニュースです。当時の菅義偉首相が海洋放出を決めたと発表する前日です。衆議院の決算行政監視委員会で、菅さんが「近日中に方針を決定したい」「真摯(しんし)に向き合い、万全の対策を講じていくことが大事だ」などと述べたことを報じています。

 実際の委員会では、共産党の高橋千鶴子議員が質問しました。高橋さんが地元の、特に漁業者の反対を押し切って海洋放出に踏み切るのかという点を問うているけれど、菅さんは「いつまでも先送りできない」とか「丁寧に説明をして」などと言うばかりで、誠実に答えない。そういうやり取りがされた翌日、「海洋放出決定」が報じられる。地元紙が号外で伝えたほど、地元にとっては大きなニュースなんです。

 前日のNHKのニュースでは、そういう大きな問題であることが全く見えません。ニュースの中身は全部菅さんや政府が主語になり、高橋さんが何を指摘したのか、高橋さんの名前さえ出てきません。政府がかみ合わない答弁をしていることも、何が問題であるのかも伝わらず、粛々と進められているかのような印象を受ける報じ方でした。

 2018年5月30日の「クローズアップ現代」では、「議論白熱!」と題して働き方改革関連法案の大きな焦点だった高度プロフェッショナル制度(高プロ)導入の是非を取り上げました。私も反対の立場で生放送に出演しました。

 議論は1月から予算委員会で始まり、その段階から今国会最大の与野党対決法案だと言われていました。早くに取り上げれば、世論の関心はもっと高まっていたと思います。裁量労働制の拡大方針については当時の安倍晋三首相の答弁撤回を契機に注目が集まり、法案から削除されましたが、同じように世論が審議に影響を与える可能性もありました。

上西さんはニュースだけでなくNHKの国会中継に対しても、重要な論点がわかるような伝え方を求めます。ネットで国会中継が見られる中、メディアが国会審議を伝える意義はどこにあるのでしょうか。

 けれどもこの放送は5月25…

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