寝台特急ブルートレイン、遍路宿で再出発 車でしかたどり着けないが

福家司
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 かつて寝台特急ブルートレイン」として走った寝台車2両を活用した遍路宿が4月8日、四国霊場66番札所、雲辺寺に登るロープウェー山麓駅の駐車場(香川県観音寺市大野原町)にオープンした。鹿児島県で雨ざらしになっていた車両を移設して約2年。コロナ禍や資金難を乗り越えて、ようやく開業にこぎ着けた。

 オープンしたのは、四国遍路の駅「オハネフの宿なは・瀬戸」と名付けられた簡易宿泊施設。2008年までJRの寝台特急「なは」として京都―熊本間などを走っていた開放式B寝台(定員32人)と2人用個室デュエット」(11室、定員22人)の2両に宿泊できる。オハネフとは車両の形式を表す記号だ。

 2両は引退後、鹿児島県阿久根市肥薩おれんじ鉄道阿久根駅前に置かれ、ライダーを対象にした宿泊施設になった。だが、運営団体が解散して14年に営業休止し、放置されていた。

 これを幼い頃からブルートレインが好きで、会社員時代に寝台特急「瀬戸」号に乗って上京した善通寺市のうどん店経営、岸井正樹さん(62)が買い取り、クラウドファンディングで得た1千万円余りを投じて観音寺市に移設。車体の塗り直しなどの応急修理を施し、遍路宿の開業を目指した。21年4月のことだ。

コロナ禍、資材高騰が追い打ち

 そこからが困難の連続だった。車両の傷みは想像以上で修理に時間と費用を要し、コロナ禍と資材の高騰が追い打ちをかけた。車内に積まれていた空調機器は使えないことがわかり、高額なリースで代替品を導入。山の中腹だけに、自前で電気や水道を引き込み、排水路も作る必要があった。金融機関から多額の融資を受けた。

 岸井さんは「何とか泊まれるようにしたかったので、開業できてほっとしている。ブルートレインの歴史を親から子、孫へ、次の世代に伝えていきたい」と話す。ただ、車を利用しないとたどり着けない立地のためか、予約は今のところ低調で、開業後も経営は苦しいという。

 初日の8日は県内外から鉄道ファンら4人が宿泊した。和歌山市から訪れた男性会社員(26)は「全国にあるブルトレの宿に泊まってきたが、デュエットは珍しい」。友人の神戸市の男性会社員(28)は「実際の夜行列車のように、車内で見ず知らずの人と出会うのが楽しかった」と話した。夜は満天の星を眺め、酒を酌み交わし、オルゴールから始まる車内放送の再現も楽しんだという。

 地元の男性会社員は「(ブルートレインの)『瀬戸』は瀬戸大橋開業前に(岡山県の)宇野駅にとまっている姿をよく見たし、『なは』は会社勤めを始めてから、九州に遊びに行くのによく乗った。いつオープンするのかと気になっていたが、初日に泊まれて光栄だ」と話した。神戸と和歌山の2人を車で連れてきたという。

 近くでは、岸井さんが手がけるうどん店や、亜熱帯植物を展示、販売する温室が順次オープンする予定。

 宿泊料は開放式B寝台は5千円、デュエットは一室(2人)1万2千円(いずれも税込み)。大型連休を含む5月8日までの予約を受け付けている。予約は岸井さん(090・6286・0325)。(福家司)

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