手塚治虫文化賞受賞4氏の言葉 特別賞楳図さん「先生は苦笑いかも」

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 第27回手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の各賞が決まった。マンガ大賞は入江喜和(いりえきわ)さん(56)の「ゆりあ先生の赤い糸」(講談社)、新生賞は「断腸亭にちじょう」(小学館)のガンプさん(43)、短編賞はやまじえびねさん(57)の「女の子がいる場所は」(KADOKAWA)、特別賞は楳図かずおさん(86)が選ばれた。

 各賞の皆さんが寄せた「受賞のことば」は次の通り。

マンガ大賞の入江喜和さん「小さな希望になったら」

 漫画の神様・手塚治虫先生のお名前がついた賞――そんなスゴい賞をいただいたひにゃこの先どうなってしまうのか、逆に不安になるほど嬉(うれ)しいです。ありがとうございます!

 漫画家と名乗って34年になりますが、ちゃんと仕事できたのは実質20年あるかどうかで、みなさんぶち当たる育児・家事・介護の壁の前に「今度こそもう漫画は無理だな」と諦めつつ、それでも周囲の優しさに助けられたりして、騙(だま)し騙し今日まで何とかつないで参りました。

 そんな学も華もないおばちゃん漫画家の自分にはもったいないほど輝かしい賞ですが、これを見たお若い方や、「もう漫画やめようか」と悩んでおられる方々の小さな希望になったら最高だなと、おこがましいこと承知でそう思っております。ブラック・ジャック先生も生誕50周年のこの年に、50歳が主人公のこの漫画を選んでいただけたことに、ちょっと運命も感じたりしつつ、みなさま本当にありがとうございました!!

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 いりえ・きわ 東京都出身。1989年に「週刊モーニング」にてデビュー。代表作に「のんちゃんのり弁」「昭和の男」「おかめ日和」「たそがれたかこ」など。BE・LOVEで連載していた「ゆりあ先生の赤い糸」が第45回講談社漫画賞総合部門受賞。

新生賞のガンプさん「出来過ぎでクサいなー」

 私は現在ガンの闘病中です。病気が病気なので楽観はできないのですが、とりあえず漫画が描ける健康状態は維持できています。ガンというと、わー大変そうだなと思うかもしれませんが、その想定の軽く数倍は大変です。現実というヤツはヤバいです。想像できないことが次から次に起きます。その事態の思わぬ展開に苦しみつつも、余りに色々起こるので、だんだんとこれ描けるなら描きたいなと思うようになりました。で、描いてます。そしてその現実というものは本賞受賞という展開を迎えました。やはり全くの想定外です。まぁ、当たり前に嬉(うれ)しいんですが、その展開は(描くんだったら)ちょっと出来過ぎでクサいなーとかも思っています。

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 がんぷ 1980年生まれ。2009年に商業誌デビューし、漫画家としてスタートを切る。その後、名義を変えて連載している中、2019年1月に大腸がんの告知を受ける。抗がん剤治療、放射線治療外科手術の闘病生活を経て、2021年11月より自身の体験を元に「断腸亭にちじょう」を連載開始。

短編賞のやまじえびねさん「驚きと感謝で胸がいっぱい」

 実のところ、この作品に取りかかる前、わたしはたそがれておりました。もう描きたいことがない。わくわくするアイデアも浮かんでこない。これはそろそろ潮時なのかなあと、そんな考えに迫られておりました。

 けれども、描きたいことがないからといって、漫画が描けない理由にはならないだろう、描けることを描いたらいいのでは? と、ふいに思いついたのです。そこで、わたしが描けそうなことを編集部の担当さんに探してもらいました。そこから始めてできあがったのがこの短編集です。

 まだ描けることがわかりました。その上このような素晴らしい賞をいただき、大いにはげまされました。驚きと感謝の気持ちで胸がいっぱいです。ありがとうございました。

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 1985年「LaLa」でデビュー。主に「コーラス」や「フィール・ヤング」で活躍後、「コミックビーム」に発表の場を移す。代表作に「LOVE MY LIFE」(2006年映画化)、「愛の時間」「レッド・シンブル」など。女性が生きていくことを考える作品世界に定評がある。

特別賞の楳図かずおさん「先生は苦笑いされているかも」

 まずは特別賞をいただき、ありがとうございます!

 手塚治虫マンガとの出会いは『新宝島』ですが、詳しくは省略します。

 先生とは全く別の路線を進んだため、私はご本人との会話に恵まれませんでした。でも一度だけ、ご子息の眞氏が作られた映画に出演した際、イベント会場で「この前はご苦労様」と声を掛けていただきました。

 前にも後にもそれだけですね。なので、今回賞をいただく巡り合わせとなり、先生はもしかして苦笑いされているかもしれません。好き嫌いに妥協しない方でしたから。

 その後、マンガはどんどん進化し、拡散し続けています。マンガ自体の意義も簡単ではなくなりました。

 こんな時こそ先生、あなたに生きていて欲しかった!! たとえマンガを描かなくても、ただそこに居るだけで!! 重くて深い存在こそ、今こそ必要だと思うからです。

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 うめず・かずお 高校3年生の時、「別世界」「森の兄妹」でデビュー。「へび少女」「猫目小僧」などのヒットにより、“ホラーまんがの神様”と呼ばれる。「漂流教室」で小学館漫画賞受賞。「おろち」「洗礼」「まことちゃん」「神の左手悪魔の右手」「14歳」など、数多くのヒット作を生み出す。2018年、「わたしは真悟」で仏・アングレーム国際漫画祭「遺産賞」受賞。同年度、文化庁長官表彰受賞。22年、27年ぶりの新作「ZOKU―SHINGO」を発表。

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