「うっそだろ」浦沢直樹が驚く「石の花」 一人で描いた孤高の漫画家

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聞き手・黒田健朗

 手塚治虫作品のアニメーターとしても活躍した坂口尚(ひさし)さん(1946~95)が40年ほど前に描いた漫画「石の花」が今年、「漫画界のカンヌ」と呼ばれるフランス・アングレーム国際漫画祭で「遺産賞」を受賞した。第2次世界大戦時のユーゴスラビアの戦乱を緻密(ちみつ)に描き、現在にも通じる戦争の愚かさを伝える。孤高の漫画家とも言われる坂口さん。その作品に大きな影響を受けたという漫画家の浦沢直樹さん(63)にその魅力を聞いた。

 ――浦沢さんは「石の花」の愛蔵版第1巻(講談社、2002年)のあとがきで、坂口尚さんたちの出現は漫画における「ルネッサンス」ではないか、と書かれています

 5歳の頃から漫画を描き始め、8歳の頃には長編を描いていました。ただ、高校卒業の頃、70年代後半に、少し漫画から距離を置いた時期がありました。

 漫画界では、59年の週刊少年誌の誕生以降、部数の爆発が起こりました。当時、漫画はあまりに売れるので企業が乗り出す「産業」のようになっていた。僕自身、高校でバンド活動に夢中になっていたということもありますが、そんな商業主義的な漫画の隆盛を見て、情熱がなんとなく冷めてしまっていたのだと思う。

 気持ちが離れる中、衝撃を受けたのが大友克洋さん(「AKIRA」など)。そしてその頃、坂口尚さんの作品にも出会ったんです。

記事後半では浦沢直樹さんが心引かれたという坂口尚さんの絵の魅力や、「表現としては一級品」という「石の花」のすごさ、フランスで受賞したことへの複雑な思いについて語っています。

 70年代後半、漫画界では…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年4月23日10時11分 投稿
    【視点】

    表現者の言語をよく捉えたインタビューだと思う。「自然界にはあのような線はない」ところに線を描くのが「表現」であり、人間ならではの人為artである。 一人で描いていたというのは、超人的だとも思う反面、「線を描く」ことを人に任せるという妥

    …続きを読む