第1回「育て、依存させ、殺す」 台湾パインの活況は中国のワナだったか
「芯まで甘い」と人気を博する台湾産パイナップルは、日本の年間輸入量がこの2年間、それまでの8倍超に急増した。
ただ、そこに至る道のりは苦かった。
「日本には、とても感謝している」
台湾南部・高雄市の郊外にあるパインの集荷場で昨年7月、協同組合「新農果菜生産合作社」を率いる張清泉さん(38)は真剣な表情で語った。場内では、日本向けの出荷作業が最終盤を迎えていた。猛暑のなか、組合員たちが大型冷蔵庫から、日本語の書かれたパイン入りの段ボール箱をトラックに積み込んでいく。
そうでなければ、そのパインは行き場を失っていたかも知れない。
【連載】台湾「強制的平和統一」への布石 依存させる巨大市場
台湾の「平和的統一」を掲げる中国の習近平政権は、巨大市場を武器とした幾層もの働きかけを続けています。台湾側が「戦わずに台湾を奪う」ねらいだと警戒するその工作とは。台湾の現場から報告します。
組合員の陳冠竹さん(35)がパインの中国への輸出を始めたのは2017年だ。「中国とフィリピンによる南シナ海の領有権争いがきっかけだった」と言う。
フィリピンは13年、国連海洋法裁判所に仲裁を提起した。フィリピンと台湾の統計によると、フィリピンからの対中パイン輸出は仲裁の前後で大きな増減を繰り返していた。これに対し、台湾産パインの対中輸出は15年以降に急上昇し、19年には過去最高の5万トン超に達した。
中国の国有企業などから大量の高値の注文が入ったためだ。陳さんは、こうした客から「台湾の農民を助けるため、台湾産パインを大量購入せよと政府から命じられている。生産量を増やして欲しい」と言われたことを覚えている。中国からの注文に応じるため、借金して畑の面積をそれまでの6倍まで拡大した。
また、仲間の農家を説得して、21年1月に計約30人の協同組合をつくった。組合の耕作規模は計70ヘクタールと台湾でも最大規模だった。
たった2カ月後のことだった。
「太陽を見るのが怖かった」
突然、台湾産パイナップルに…
- 【解説】
習近平は2020年4月の財経委員会で、中国への依存を強化させるよう指示を出したと言われている。この指示が台湾のパイナップルにも及んだと考えるのが妥当なのかもしれない。しかし、習近平は何らかの具体的な指示をしたというよりは、現場が忖度し、台湾
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