震災復興で生まれた新しい街だからこそ 古民家で古本屋、文化拠点に

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奈良美里
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 60年前の時計が静かに時を刻む。どこか懐かしい柄のコップに、貯金箱。古本が並ぶ棚には、昔の机や木箱が使われている。岩手県陸前高田市竹駒町の山あいにある築150年以上の古民家を使って3月8日、古本屋「山猫堂」が開店した。震災復興で生まれた新しい街だからこそ、古いものの価値に目を向けることを忘れたくない、と店主は言う。

 この空間にある物は、空き家に残った家財や遺品の整理で出たものばかりだ。

 店主の越戸浩貴さん(37)は、陸前高田市に移住して、もう10年になる。

 東日本大震災で津波の被害に遭った街は新しく高台が造られ、建物が建った。でも、こう思う。「古いものも、残したいものもなくなっていった10年だった」

 越戸さんは同県久慈市出身。震災当時は岩手大大学院に在籍していた。仮設商店街オープンの支援で街を訪れたのを機に、店の情報発信のフリーペーパーを作る目的などで通い続けた。

 そして、2013年に移住。これからの街づくりに興味があったが、何より出会った人たちに影響された。家族を失いながらも、震災直後から地域のために動く人たち。そんなエネルギーに突き動かされた。

 震災後、街には、全国から支援などで多くの人が集まってきた。それを街づくりの資源にしようと、企業研修や修学旅行生の民泊を受け入れる仕組みをつくった。17年には移住定住に関する事業を担うNPO法人「高田暮(くらし)舎」を始めた。

 日々、新しい街ができていく。でも、一方で、もどかしさも感じていた。誰かが残さなければ、古いものが消えていくことだった。

 NPOは空き家バンク事業や空き家に残る家財や遺品の整理も担う。遺品がそのまま残り、家族が困っている空き家も少なくない。

 家財整理のために空き家に行った時のことだ。凝った書斎に大量の本と何十年も前の雑誌が保管されていた。「好きで、とっておいていた人がいたんだ」

 その家にあった本と自分の趣…

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