1本だけ残った高台の桜、大槌町で8年ぶり花見会 つなぐ地域の希望

東野真和
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 岩手県大槌町の高台にある町中央公民館安渡分館の前にある桜が満開になり、9日、花見会が8年ぶりに開かれた。住民たちの思い入れが強く、東日本大震災後の復興工事で伐採される危機を乗り越えた桜だ。

 桜がある場所は、震災前は小学校の校庭で、当時は十数本の桜が並んでいた。住民によると、多くが第2次世界大戦前に植えられ、「この桜の下で再会しよう」と誓い合って出征した人もいたという。震災後、小学校は避難所になり、春には被災者を慰めた。

 その後、小学校は廃校になり、新しい道路の予定地にかかるため伐採計画が持ち上がった。しかし、伐採の説明会の席で小学校の卒業生の佐藤加奈絵さん(54)が「地域の思い入れが強い桜。震災で安渡を離れた人たちのためにも残したい」と訴え、1本だけ残すことになった経緯がある。

 工事やコロナ禍を経て、8年ぶりの開催となった花見会。町内会主催で、大槌高校生たちが協力した。強風のため分館内から花を眺めることになったが、盛岡市から来た女性は「津波で亡くした母と一緒に見たことを思い出す」。佐藤さんは震災後に誕生した孫たちと訪れて「見せることができてよかった」と話した。

 残った桜は最近、病気や老化で衰えが目立つ。住民が専門家に頼んで、病気になった枝を切ったり、根元を掘って栄養を取りやすくしたりした。処置にあたった森匡弘さん(47)は「地域の希望をつないできた桜。一般的な寿命は過ぎているが何とか延命したい」。町内会は、枝を育てて子孫を残すことを検討している。東野真和

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