雨音に消えた声、あきらめず捜した 水温8度の海、漁師らが人命救助

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小幡淳一
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 「助けてけろー」

 「助けるから、がんばれ!」

 山に囲まれた小さな港に男たちの声が響いた。

 岸壁に魚を運び上げていた際、海に転落し、冷たい海水につかった漁師。助けを求める叫び声は、次第に弱くなり、強い雨音に消されていく。

 こんな悪条件の中、命は救われた。海の死亡事故をなくしたい――。地元の漁師たちの思いがあったからだった。

 3月26日午後0時50分ごろ、岩手県大船渡市三陸町にある綾里(りょうり)漁港で、救出劇があった。

 三陸沖は、黒潮と親潮、津軽暖流の三つの海流が交わり、年間を通じて魚種が豊富だ。港には数十隻の漁船が係留されているが、この日は悪天候のため、人影はないはずだった。

 ところが、たまたま港の近くを通りかかったホヤの買い付け業者が「おーい、おーい」と呼ぶ声を聞いた。でも、周辺に人の姿は見えない。不審に思って、知り合いの地元漁師の亘理孝一さん(69)の家に電話を入れた。

 電話を受けた亘理さんは、孫と遊んでいたところだった。「誰かがケンカでもしているのかな」と、トラックで港に向かった。

 数分後、港に着いたが、声は聞こえない。連絡してくれた業者と落ちあい、声は小さくなっていき、やがてしなくなったと聞いた。

小さな港で何が起きているのか。もしかしたら……。海の男たちは動き出した。

 業者とはそこで別れ、亘理さ…

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