地域支える鉄道整備 熊本県内、南と北で異なる課題

統一地方選挙2023

長妻昭明
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 熊本県内の北と南で鉄道に関する大きな課題が持ち上がっている。世界的半導体メーカーの進出で活況を呈する県北では延伸計画が進むが、疑問の声も上がる。豪雨被災地の県南は再建の道筋が見えないままだ。地域を支える鉄道のあり方は、統一地方選後の県政の大きな課題になる。

 熊本空港は、アクセスの悪さが長年の課題だ。今も熊本駅まで車で45分かかる。空港アクセス鉄道の計画が持ち上がったのは1997年度のことだ。

 県は、2018年度にJR豊肥線の三里木(菊陽町)、原水(同)、肥後大津(大津町)の各駅からそれぞれ分岐して延伸する3案を検討。費用対効果が高く、サッカーJリーグ・ロアッソ熊本のホームスタジアムの交通渋滞も緩和できることから、JR九州と三里木ルートで合意した。

 ところが21年11月、世界的な半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)の県内進出が決まり、流れは一変した。

 同月末、定例県議会で蒲島郁夫知事は「今回の立地決定を踏まえ、現在のルート案のみならず、効果の高いルートを検討する」と述べ、アクセス鉄道のルートを見直すと表明した。

 そして22年9月、三里木駅よりTSMCの工場に近い肥後大津駅を起点とするルートが最も費用対効果が良いという調査結果を県が発表した。

 急な方針転換に県議会では苦言が相次いだ。

 公明党の県議は「そもそも、私はTSMCと空港アクセス鉄道とは直接的には関係がないと考えていた」と疑問を呈した。

 三里木ルートが有力視されていた時から肥後大津ルートを主張して自民党を離党した県議ですらも、財源などの問題をより議論して県民の理解を得ないといけないとした上で、「残念ながら、今は多くの県民が否定している」とした。

 それでも、見直し表明からわずか1年後の22年11月、県とJR九州は肥後大津駅と熊本空港を結ぶルートとする方針で合意を結んだ。蒲島知事は肥後大津ルートのメリットを強調する。「TSMCの工場に通勤する人、住宅を持つ人、TSMCにむかって海外から出張に来る人。色々な人が車を持ちませんから、TSMCだけでなくて半導体の集積によって鉄道があったらいいなと必ず思ってくるだろうと私は思う」

 既に着手している設計と環境アセスメントを26年度までに終え、早ければ34年度末の運行開始をめざすが、課題は山積している。

 県は整備費410億円と見込むが、財源確保のめどは立っていない。JR九州が3割を上限に負担することに同意しているが、国からの財政支援が決まっておらず、県と自治体の負担割合も未定だ。鉄道の詳細なルートの詰めも今後だ。統一地方選後の県議会の大きな焦点のひとつになる。

 一方、20年の記録的豪雨で大きな被害を受け、JR九州が復旧費約235億円と試算する県南の肥薩線。総延長の7割にあたる86・8キロ(八代―吉松)で運休が続き、復旧の道筋が見えない。

 県や沿線自治体は、鉄道による再建を県南の観光再生の「生命線」と位置付ける。国も、他の補助金と組み合わせるなどしてJR九州の負担を最大210億円圧縮できると提示するなど、復旧を後押しする。

 だが、沿線の人口は大きく減少しており、被災区間は豪雨前の19年度でも約9億円の営業赤字を計上していた。コロナ禍が経営を直撃したJR九州は採算性を重視する姿勢を強めており、復旧には慎重だ。

 鉄道での復旧に向けた議論を進めるため、国と県は22年12月、JR九州を含めた三者で利活用計画を策定する方針を決めた。鉄道の利用実態や需要などの調査は3月に始まったが、計画策定時期は決まっていない。

 人吉市で人吉旅館を営むおかみの堀尾里美さんは「地元の議員や知事は人吉に来ると必ず肥薩線を復旧すると言ってくれる。でも目に見える変化はない」と不満を漏らす。「アクセス鉄道は明るいニュースだから歓迎したいが、肥薩線が後回しになるなら悲しい」と複雑な胸中を明かす。(長妻昭明)

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