坂本龍一さん「神宮外苑開発は中断を」 亡くなる1カ月前の手紙

土舘聡一

 3月28日に死去した音楽家の坂本龍一さんは、亡くなる約1カ月前、多数の樹木伐採計画をめぐって議論となっている明治神宮外苑地区(東京都)の再開発について、見直しを求める手紙を小池百合子都知事に送っていた。

 坂本さんを担当していたマネジメント会社が取材に対し、内容を明らかにした。

 手紙は2月24日付。坂本さんは「世界はSDGsを推進しているが、神宮外苑の開発は持続可能とは言えない」と指摘し、「これらの樹々を私たちが未来の子供達へ手渡せるよう、再開発計画を中断し、見直すべきです」とした。小池知事には「あなたのリーダーシップに期待します」と呼びかけた。

 小池知事は3月17日の定例記者会見で、坂本さんからの手紙について問われ、「事業者でもある明治神宮にも手紙を送られた方がいいんじゃないでしょうか。様々な思いをお伝えいただいた。事業者からは緑の量を増やすと聞いている。取り組みやまちづくりの意義を、坂本さんはじめ様々な方々、都民の皆さんにも伝わるように情報発信するよう改めて指示している」と話した。

 神宮外苑の再開発は、地権者の宗教法人「明治神宮」、大手ディベロッパーの三井不動産など4者による民間事業。東京都が2月に事業を施行認可し、3月に着工された。(土舘聡一)

坂本さんから小池知事への手紙全文

 東京都都知事 小池百合子様

 突然のお手紙、失礼します。私は音楽家の坂本龍一です。神宮外苑の再開発について私の考えをお伝えしたく筆をとりました。どうかご一読ください。

 率直に言って、目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません。これらの樹々はどんな人にも恩恵をもたらしますが、開発によって恩恵を得るのは一握りの富裕層にしか過ぎません。この樹々は一度失ったら二度と取り戻すことができない自然です。

 私が住むニューヨークでは、2007年、当時のブルームバーグ市長が市内に100万本の木を植えるというプロジェクトをスタートさせました。環境面や心の健康への配慮、社会正義、そして何より未来のためであるとの目標をかかげてのこと、慧眼です。NY市に追随するように、ボストンやLAなどのアメリカの大都市や中規模都市でも植林キャンペーンが進んでいます。

 いま世界はSDGsを推進していますが、神宮外苑の開発はとても持続可能なものとは言えません。持続可能であらんとするなら、これらの樹々を私たちが未来の子供達へと手渡せるよう、現在進められている神宮外苑地区再開発計画を中断し、計画を見直すべきです。

 東京を「都市と自然の聖地」と位置づけ、そのゴールに向け政治主導をすることこそ、世界の称賛を得るのではないでしょうか。そして、神宮外苑を未来永劫守るためにも、むしろこの機会に神宮外苑を日本の名勝として指定していただくことを謹んでお願いしたく存じます。

 あなたのリーダーシップに期待します。

 2023年2月24日 坂本龍一…

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