フライパンや中華鍋、2年待ちも 「鉄作家」が語る鉄調理器具の魅力
【香川】槙塚鉄工所(高松市)の工場には、ギャラリーがある。鉄製のフライパンやケトルといったキャンプ用の調理器具のほか、アート作品やインテリア小物が展示販売されている。
専務の槇塚登さん(50)は「鉄作家」として知られる。著名人も愛用する鉄鍋を生み出したかと思えば、瀬戸内海の灯台やフェリーをデザインした鉄のブローチも手がける。
22歳で家業の鉄工所に入った。美術が好きで、鉄くずからアクセサリーを作っていた。しかし、あまり商売にはならなかった。
鉄工所は当時、水路などを主に作っていたが、公共工事の減少とともに廃業の危機に陥っていた。
転機は10年ほど前に訪れた。東京のフードコーディネーターにステンレスで作っていた食器や鍋を鉄で作るよう勧められた。
大学で鋳物を学んだ新入社員2人とともに、鉄を溶かす「コークス炉」を作り、フライパンを作ってみた。すると、「料理が劇的においしくなる」と評判に。雑誌やテレビにも取り上げられた。
「鉄だとさびたり、焦げ付いたりすると思い込んでいた。鉄工所は鉄板を切って溶接するのが仕事だが、鉄板を焼いてたたく鍛冶(かじ)仕事のような作業を始めた」
フライパンは3~4回、中華鍋は7回も「焼いてたたく」を繰り返す。ひと月にできるのは30個が限度。納品は「2年待ちで注文は止めている」という。
もう一つの転機は5年前。香川県出身のアウトドアライフアドバイザー、寒川一さん(59)とキャンプ用品ブランド「TAKIBISM(タキビズム)」を立ち上げた。プレス機を使うが、鉄を炎にくぐらせてたたくなど手作りの感覚も残す。「機械の効率と手作りの温かさを組み合わせている」という。
キャンプブームも後押しした。コンセプトにもなった「たき火で調理する道具」が好評だ。槇塚さんは「キャンプといえば、やはり食のウェートが大きい。燃焼効率だけを追求しない、たき火そのものも楽しんでもらいたい」と話す。
たき火台も自社で作っている。昨年12月にはユーザーを集めたキャンプを初めて開催。直接火であぶることができ、そのまま皿として使える「フライパンディッシュ」を使った料理コンテストも開いた。今年3月には、たき火ブースター、鍋、おたまを組み合わせた新作「焚火(たきび)パラパラ炒飯セット」も発売した。
槇塚さんは鉄の調理器具について、「鉄分が取れるし、料理の味がまろやかになる。使えば使うほど育てがいがある道具」と話す。
キャンプ用品を手がけるスチールファクトリー事業部では、若手社員がいきいきと働き、売り上げは右肩上がりという。槇塚さんは「鉄の魅力を次の世代に引き継いでいきたい」と話している。(福家司)
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槙塚鉄工所 1972年創業。現在の社長は槇塚さんの兄・涼さん。従業員は約20人。取扱商品などの詳細は同社サイト(https://www.steel-factory.jp)。高松市木太町2693、電話087・862・2770。原則として日曜・月曜定休だが変更もある…