高級車に憧れて…新卒でいきなり遠洋漁船が急増 「頑張れば稼げる」

星乃勇介
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 カツオやマグロの遠洋漁船の基地がある宮城県気仙沼市で、異変が起きている。長期間、海の上で生活を送るのに、新卒でいきなり船の仕事を選ぶ若者が急増しているのだ。その数、前年度の4倍以上。いったいどういうことなのか。

 同市の水産研修センターで3月中旬、遠洋マグロ船に応募した阿部類さん(20)が、70代の元漁労長から、船で必須のロープワークを習っていた。

 岩手県立宮古水産高校の専攻科を出たばかり。幼い頃から漁師になるのが夢だった。テレビでマグロ船の仕事を見て、世界中で巨大な魚を釣り上げる格好良さにひかれた。

 待遇の良さも魅力だった。先に船に乗った先輩は、高級外車をローンで買ってドライブしている。「『楽な仕事ではない』とも聞いている。だが、頑張った分だけ報酬があるなら、飛び込む価値はある」

 船主らでつくる宮城県北部船主協会(気仙沼市)によると、遠洋マグロ船の場合、10カ月間海に出て、帰港したら50~60日間休みというパターンだ。水揚げ次第では、1年目でも年収500万円が可能。しかも、船に乗っている間は家賃や食費、光熱費がいらない。

 2022年度、新卒で遠洋・近海マグロ船や遠洋カツオ船に乗るのは高卒14人と大卒4人。21年度は高卒4人だけで、それ以前もほとんど1桁だった。

 応募の多くは県内外の水産、工業系高校だが、北海道の農業系大学からもあった。先輩からの口コミで「憧れた」という若者が多いという。

 遠洋漁船の乗組員は70代も多く、高齢化が進む。協会は「このままだと船が動かせなくなる」と危機感を抱き、若手の求人に力を入れている。

 2年前には、動画投稿サイトでアニメのキャラを使った仕事紹介を始めた。「船に乗るのは借金返済のため」といった誤ったイメージを払拭(ふっしょく)するのが狙いだ。再生回数はシリーズで24万回を超え、閲覧者からの問い合わせも増えた。

 協会のリクルーター、吉田鶴男(たづお)さん(52)はほぼ連日、オンラインで面接する。急増の理由について「動画と口コミとがかみ合ってきた」といい、「このまま増えていってほしい」と期待する。

 課題は定着率だ。最初の航海を終えると、すぐに辞める人もいる。吉田さんは「長続きさせるために船側も努力はしている。ただ『楽で高給』な仕事は、どこにもない。それが分かった上でなお、やりがいを求める若者がいる。温かく受け入れたい」という。

 問い合わせは県北部船主協会(0226・22・0793)へ。(星乃勇介)

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