磐越東線など福島の赤字4路線、存続策は?沿線自治体で協議始まる
利用客が特に少ない福島県内四つの赤字路線を、将来にわたりどう存続させていくか。JR東日本による収支公表を受け、沿線自治体と県による利用促進論議が本格的に始まった。人口減で利用客の増加が難しい中、自治体は「鉄道は地域に欠かせないインフラ」として、JR東や国、地域住民を巻き込み、存続の道を探る。
いわき市で3月29日に開かれた磐越東線活性化対策協議会の初会合には、いわき市、郡山市、田村市、三春町、小野町の沿線5市町の首長と県の交通政策担当者が出席した。JR東日本東北本部や国土交通省東北運輸局もオブザーバーとして参加した。
会合では、JR東との意見交換や情報共有、住民アンケートなどを通した沿線地域の現状分析を2023年度中に行うとする当面の活動方針を決めた。24年度以降は、沿線自治体職員や住民らで考えた鉄道の利用促進策を、国の財政支援も受けながら実施する。
具体的には、住民が利用しやすいダイヤ改定、バスなど二次交通との連携、企画列車の運行などを考えているという。
協議会は、こうした利用促進策の効果を見極めながら、鉄路存続を図っていきたいとしている。
磐越東線は、いわき市と郡山市を結ぶ全長85・6キロの路線で、沿線5市町に16駅がある。JR東が昨年11月に公表した21年度収支では、このうち、いわき―小野新町間が6億9千万円の赤字だった。乗客数はJRが発足した1987年と比べ5分の1に減った。
協議会の会長には、いわき市の内田広之市長が選ばれた。非公開での意見交換後に取材に応じた内田市長は「協議は鉄路の存続が大前提だが、JRからの説明で厳しい収支であることもわかった」と話した。そのうえで「沿線住民にとって重要な生活インフラであるとともに、周囲の豊かな自然をいかせば有力な観光コンテンツにもなりうる。JRにお願いするばかりでなく、我々自治体も汗をかき、一致団結して鉄路活性化に向けて取り組んでいきたい」と意欲を示した。
地方路線を巡っては、国交省の有識者会議が昨年7月、1キロあたりの1日平均乗客数(輸送密度)が1千人未満の路線は、JRと沿線自治体が利用促進に向け協議すべきだとの提言をまとめた。JR東も同月、利用者が特に少ない赤字路線の収支を初めて公表した。
県内の協議会は、これを受けて始動したものだ。県外では青森県のJR津軽線の蟹田―三厩間など、鉄路の存廃にふみこんだ議論が行われている路線もある。
ある県幹部は「JR側から廃線やバス転換を迫られないようにするためにも、有効な手立てを考えなければならない。決して悠長に構えていられるわけではない」と危機感をにじませた。
◇
県内には磐越東線も含めて、利用客が特に少ないとして、JR東が収支データを公表した鉄路が4路線9区間ある。
県内2区間が対象となった水郡線は昨年12月、郡山市や塙町など沿線11市町村でつくる協議会に県が加わり、利用促進策の検討を始めた。
昨年10月に豪雨災害から約11年ぶりに全線が開通した只見線は、不通区間だった会津川口―只見間の鉄道施設を県が保有し、JRが列車を運行する上下分離方式が採用された。只見線は公表対象外の不通区間を除く全3区間すべてが赤字で、県や会津地方17市町村が、再開後の乗客増や地域活性化をめざす第2期只見線利活用計画の策定を進めている。
昨年8月の豪雨災害から復旧し4月1日に全線再開する磐越西線も、県内3区間すべてが赤字だ。今後、磐越東線と同様の協議体が始動する予定だ。(斎藤徹)
◇
福島県内を走るJR東日本の赤字路線と区間(2021年度)
路線 区間 赤字額 平均通過人員
水郡線 常陸大子(茨城県大子町)―磐城塙(塙町)4億4100万円 139人
磐城塙―安積永盛(郡山市) 8億9200万円 819人
只見線 会津若松―会津坂下 4億7200万円 978人
会津坂下―会津川口(金山町) 9億1800万円 124人
磐越西線 会津若松―喜多方 6億2900万円 1500人
喜多方―野沢(西会津町) 7億8600万円 402人
野沢―津川(新潟県阿賀町) 9億500万円 80人
磐越東線 いわき―小野新町(小野町) 6億9000万円 200人
JR東日本の収支データを元に作成。只見線の会津川口―只見間は公表対象外。平均通過人員は利用客の1日1キロあたりの人数。