捨てられなかったおむつのレシート 11年分の育児日記が伝えるもの

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阿久沢悦子
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 仙台市に住むかおりさん(41、仮名)は、1枚のレシートをずっと持っている。お守り代わりとして。

 おむつを買って受けとった感熱紙のそれは今、色が薄れ、文字が判読できなくなった。ただ、そこに書いてあった「14時7分」という時刻に運命の分かれ道を感じる。

30万字の育児記録

 かおりさんが書いた11年分の育児日記をもとにした回想録「わたしは思い出す 11年間の育児日記を再読して」が今年1月、出版された。日記を手がかりに、かおりさんがインタビューに答えた言葉を採録した。

 東日本大震災を記録しようとした日記ではない。それでも、30万字に及ぶ育児記録のなかに、震災の前後の日常が浮かび上がる。

 かおりさんの長女は2010年6月11日生まれ。東日本大震災の時はちょうど生後9カ月だった。回想録は毎月11日を起点に1カ月ごとに章を立てた。

 11年3月の章のタイトルが「わたしは思い出す、14時7分を。」だ。

 当時、かおりさんの一家は海沿いの仙台市宮城野区の蒲生地区に住んでいた。震災の直前、海岸線を南に下り、夫と長女と宮城県名取市に買い物に出かけた。

 帰宅してすぐに大きな揺れを感じた。「津波が来る」と聞いて、内陸部に車を走らせた。

 《もう少し買い物を続けてい…

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