故・中井久夫さんが支えてくれた 心の病と向き合う鹿児島の出版社

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宮田富士男
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 鹿児島市の出版社「ラグーナ出版」が出した「中井久夫と考える患者シリーズ」(全4巻)は、統合失調症の治療と研究の第一人者・中井久夫さん=昨年8月、88歳で死去=と、同社で働く患者の共同作業により新たな統合失調症像をつくり出す試みだ。社長の川畑善博さん(55)も中井さんの言葉に何度も目を開かれ、励まされてきた。

 川畑さんが鹿児島市の精神科病院で看護助手として働き始めた1998年当時、患者は朝から夜まで細かく定められた規則に縛られ、ほとんど自由がなかった。「医療や看護は極めて人間的な行為なのに、病院という場はシステム的で冷たい。人間の尊厳って何だろう」と考え込むようになった。

 その頃、同じ病院の精神科医の森越まやさん(現・ラグーナ出版会長)に薦められたのが、中井さんの「看護のための精神医学」(2001年)だった。

 中井さんは、統合失調症の患者について「治療という大仕事」に取り組んでいる人ととらえ、敬意を表した。「医者が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。息を引き取るまで、看護だけはできるのだ」という言葉に、川畑さんはしびれた。「看護は治療ではなくてケアなんだ」と気づかされ、「ケアならば自分は患者さんのそばにいていろんなことができる」と思えた。

 中井さんとラグーナ出版との縁は、出版社が初めて出した単行本「風の歌を聴きながら」(09年)の書評から始まった。統合失調症の女性が短歌とエッセーで半生を振り返る内容。川畑さんは「恐れ多くて自分では頼めなかった」ので、森越さんから中井さんに書評を依頼してもらった。

 「私の病気は財産なのだ」と…

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