第7回キャベツの外葉拾っても「孫にだけは…」 72歳の覚悟と最後の夢

有料記事追い詰められる女性たち

編集委員・清川卓史
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A-stories 追い詰められる女性たち

 72歳。髪は明るい色に染めている。

 上着の胸元にぬいつけているのは、100円ショップで買ったビーズの飾り。

 リサイクルショップで手に入れたお気に入りの帽子は300円、バッグは100円。

 お金をかけず、自分なりのおしゃれを楽しんできた。

 東京都内で暮らす女性は、30年以上のキャリアがあるベテランのホームヘルパーだ。

 公営住宅で一人暮らし。古希を過ぎても仕事を続けてきたのは、月2万円台の年金では食べていけないからだ。

 「足の指の間まで洗ってくれるのはあなただけだ」

 入浴介助をした要介護の高齢者から感謝された言葉を、ひそかに誇りに思っている。

 新型コロナ緊急事態宣言のさなかには、ゴミ袋に穴をあけた手製の「防護衣」を準備。感染の恐怖をこらえて、利用者宅の訪問を続けた。

 高齢者や障害者の命を支える仕事。

 ただ、女性のような登録型ヘルパーの働き方は不安定だ。移動や待機を含めて拘束時間に見合った賃金とは到底思えず、訪問先の都合で急にキャンセルになっても、休業補償もない。

 昨年の夏、コロナに感染した。

 家政婦紹介所の仕事で、高齢者の家にトイレや食事の介助に入った直後のことだった。その高齢者が陽性になったという連絡があり、そこで感染したとしか考えられなかった。

 自宅療養することになり、半月ほど収入を断たれた。だが、労災の適用もなく、休業補償はまったくなかった。

 どうして日雇いのような扱いなのか――。ずっと「おかしい」と感じながら、働いてきた。

孫が「派遣切り」で失業

 「派遣の仕事、今日で切られたよ。次の仕事がどうなるかもわからない」

 東海地方で派遣労働者として働いていた孫(23)から電話があったのは、2020年の春だった。

 孫は、コロナ禍のなかの「派遣切り」で職を失い、住んでいた寮にもいられなくなった。

 複雑な家庭事情があって、孫の母親(女性の長女)と孫の関係は断絶状態にあった。

 だが孫は、祖母である女性のことを幼いころから慕ってくれた。一緒に旅行に行ったり、動物園に連れていったりして、かわいがってきた。

 苦境を見ぬふりはできなかっ…

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    中塚久美子
    (朝日新聞専門記者=子ども、貧困)
    2023年4月20日17時0分 投稿
    【視点】

     生活保護に対する偏見や差別、ネガティブな印象を積極的に解消してこなかった政治の責任を指摘したいと思います。  2012年に芸能人の母親が生活保護を受給していることが大々的に報じられました。覚えておられる方もいらっしゃるかと思いますが、これ

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    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2023年4月20日17時0分 投稿
    【視点】

     この記事の筆者です。ホームヘルパーの女性と最初に出会ったのは、2020年の夏でした。コロナ禍が深刻化するなか、介護現場への影響を聞く取材のためでした。  女性はこの頃、ゴミ袋に穴をあけた手製の防護衣を持参し、感染の恐怖から「遺書」までも用

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