地下鉄七隈線延伸、その先は 福岡市の交通政策に残る課題

統一地方選挙2023

椎木慎太郎 板倉大地
[PR]

 福岡市営地下鉄七隈線が27日、博多駅とつながった。高島宗一郎市長が2011年に延伸の事業化を決定してから12年。市の交通政策には大きな節目となった。ただ、地下鉄の再延伸の可能性や市全体の交通アクセスの向上など様々な課題も残る。

 延伸で七隈線の各駅から博多駅までは14分短縮され、市西南部とのアクセスが大きく改善される。高島市長は26日にあった開業式典で「地下鉄がつながることでネットワークになり、大きく機能を果たしてくれる」と力を込めた。

 高島市長にとっては、10年に就任した後の最初の大きな決断が、延伸事業の着工だった。これで一つの区切りを迎えたが、他にも取り組まなければならないことは山積している。

 地下鉄で話題に上がるのが、福岡空港国際線ターミナルへの接続だ。一部メディアは、七隈線を再延伸してつなげる計画があると報じた。高島市長は昨年11月の記者会見で、再延伸について、市の総合計画におけるアイデアの一つに過ぎないという見解を示した。

 とはいえ、海外からの空の「玄関口」となる国際線まで地下鉄で直結すれば、福岡空港の利便性はさらに高まる。市が「国際都市」をめざす上で、解消すべき課題として横たわる。

 それは海の「玄関口」の博多港も同じだ。七隈線には過去、港とつなぐルートの計画もあったが、実現しなかった。高島氏は18年の市長選で、博多駅と博多港との間をロープウェーで結ぶ構想を目玉公約に掲げた。構想は断念に追い込まれたが、今後の交通政策の焦点の一つと言える。

 高島氏はまた、昨年11月の市長選で、「九州大学への交通アクセスは今のままでいいのか」などと繰り返し問いかけた。福岡ペイペイドームや市博物館がある百道浜エリアにも触れ、これらの地域を交通網にどう組み込むかを課題として強調していた。

 市東部では、地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通化も課題の一つだ。現在、双方は貝塚駅で折り返し運転をしている。市は乗り入れできるようにした場合、整備事業の収支が年間で計約2億6千万円の赤字になるという試算を出している。

 また、南区には地下鉄が通っていないこと、お年寄りが多く住む交通が不便な地域をどうサポートするか、市中心部の幹線道路などの渋滞をどうするか、といったこともある。

 高島市長は「全体の中でどう解くかを考えるべきだ。それぞれの問題に対する解き方の組み合わせの中で、最適解は生まれてくる」と主張する。

 市は、10年間の方針を定めた市総合計画の基本計画の期間が今年度末で終わることから、23年度から2~3年かけて新たな計画を作る予定としている。これと同時に都市交通基本計画も改定していく見込みだ。

 高島市長は「できるだけ多くの市民の意見を聞きたい。若い世代の声を意識的に反映させていきたい」としている。3月31日告示、4月9日投開票の県議選と福岡市議選でも、交通政策の将来像をどのように描くか、論戦が期待される。(椎木慎太郎)

初日の乗客

 延伸された福岡市営地下鉄七隈線。取材してみると、実に様々な人が、様々な思いで乗り込んでいた。

 一番列車を待つ列の先頭にいた福岡県宇美町の小川潤さん(42)は鉄道ファン。開業を心待ちにし、この日のために会社は休みを取った。「陥没事故の影響でお披露目が遅れ、ようやくといった感じです」と振り返った。

 博多駅から終点の橋本駅まで行き、折り返して博多駅に戻ってきた。一番列車の乗り心地はよく、思っていたより静かだったという。「朝早くから並んでよかった。貴重な経験になった」と喜んだ。

 福岡市中央区の白川智一さん(19)は、春から東京の大学に進学する。普段は空港線を使っているが、福岡を離れる前に記念で乗っておこうとやってきた。「上京前の最後の思い出になります」

 早良区の会社員植村研三さん(72)は、野芥駅から会社がある博多まで通勤で利用した。「これまでは天神で歩いて乗り換えないといけなかった。不便だったが、これで気持ちよく朝を迎えられそう」と話した。

 会社員の藤野行雄さん(54)は福岡に転勤してきたばかり。出張で飛行機を使うことが多く、住む場所は空港へのアクセスを重視して七隈線沿線を選んだ。「もし延伸がなかったら、七隈線沿いに住んでいなかった。同じ理由で、これから単身赴任の人が七隈線沿いを選ぶようになるのでは」と語った。(椎木慎太郎)

下宿減 心配する沿線

 地下鉄が延びると、街の学生が減る――!? 27日に延伸した福岡市営地下鉄七隈線の沿線で、そんな動きを心配する声が聞こえてきた。便利になったのに、なぜ?

 沿線には九州最大の大学、福岡大をはじめ複数の大学・短大があり、たくさんの学生が住む。

 福大生専用の賃貸住宅を扱う「高田住宅」の高田雅也さんが、異変に気づいたのは昨秋のことだ。

 毎年秋になると、翌春に契約を更新するかを学生に聞き取っている。しかし今回は、3年生から解約希望が多く出たという。

 事情を聴くと、「大学前に駅がある七隈線に直接つながった博多駅経由で、実家から通った方が安上がりになるため」とのことだった。

 大学の最寄り駅は七隈線だが、博多駅は空港線だった。このため、大学と博多駅を行き来するには、天神で、七隈線の天神南駅と空港線の天神駅との間を歩き、乗り換えないといけなかった。

 ただ延伸で七隈線が博多駅とつながり、乗り換えが不要になるので、解約を選んだという。必要な単位の多くを取り終えたことも理由になっていた。

 また北九州や筑豊方面から部屋探しに来る学生が、例年より1割ほど減ったという。高田さんは「困ったことになった」と頭を悩ませる。物件に家電をつけるなど工夫する予定だ。

 同じく学生専用物件を扱う「エステート友丘」の小島一也さんは「1、2年生の解約者が出ている」と明かす。佐賀や熊本に実家がある学生も、地元からの通学に切り替えた例があったという。「学生が多く住む地域から活気がなくならないか」と気をもんでいる。(板倉大地)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

統一地方選挙・衆参補選2023年

統一地方選挙・衆参補選2023年

ニュースや連載、候補者など選挙情報を多角的にお伝えします。[もっと見る]