【アーカイブ】大震災で見た「神様のない宗教」 いがらしみきおさん2011年寄稿
震災の不条理を前に、仙台市で被災した漫画家いがらしみきおさんが思ったこととは。東日本大震災から約3カ月後、いがらしさんが朝日新聞に寄せた手記です。(2011年6月7日付朝刊文化面掲載)
2007年に東北の農村を舞台にした漫画を描いた。金融の世界で心身ともに疲弊した元銀行員の主人公が、お金を一銭も使わない生活をすべく農村に移住する話である。村にいた神様が死んでしまい、空から日本中にザリガニが降ってくるという最終話を描いていたら、リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)し、そのあとオタマジャクシや魚が空から降ってきたなどというニュースをテレビで見るにいたっては、なんだか自分のデタラメなヨタ話が当たったような気がしていたものだ。
そして、長年構想し、昨年から描き始めた信仰、宗教をテーマにした作品は、主人公が神様に会えたかどうかという場面が、第1部の最終話だった。エンディングに迷いに迷った末「神様はいなかった」という結末は、第2部に持ち越すことにした。その最終話が編集部に届いた翌日、東日本大震災が起きた。
仙台市の住人として被災し、その夜、避難した小学校の体育館で一睡も出来なかったのは、激しい余震と底冷えのする寒さのためだけでなく、不吉なものを感じていたからだ。
電気が通じると、私はテレビ…