第1回「研究者である前に人間なんだ」 ウクライナ侵攻が与えた衝撃と葛藤

有料記事学者たちの2・24

植松佳香 加藤あず佐
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 人生において、「あの日は何をしていたか」と聞かれ、詳細に答えられる日がある。

 二松学舎大准教授の合六強(ごうろく・つよし)にとって、2022年2月24日は、まさにそんな1日だった。

 ロシアが2022年2月24日に始めたウクライナ侵攻は、学者たちにも大きなインパクトを与えました。あの日、何を思ったのか。それから1年、どう過ごしてきたのか。学者たちの「2・24」を3回に分けて伝えます。

 侵攻開始の3日前、ロシアはウクライナの一部である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」について、一方的に「独立承認」した。欧州の安全保障、とりわけ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの関係に詳しい合六は2月24日、メディアから電話取材を受けていた。昼食を食べた直後のことだ。

 「ロシア侵攻開始!」

 電話口の向こうで、何度もそんな声が聞こえた。「始まってしまった」。ロシアが2地域の「独立承認」をした時点で、ロシアの侵攻は予想していた。ただ、それでも現実になるとショックだった。

 合六は1984年生まれ。国際政治に関心をもったきっかけは、高校2年生だった2001年のことだ。「9・11」と呼ばれる米同時多発テロ。米留学中で、1カ月前に訪問していたニューヨークのツインタワーが崩れ落ちる衝撃は、いまでも忘れられない。

 「今回のウクライナ侵攻は、それと同じぐらいのインパクトがある」

 合六は15~16年の1年半にわたり、妻の海外赴任に同行して、ウクライナの首都キーウに滞在していた。住まいは街の中心部で、大統領府のすぐ近くだった。

 侵攻後、画面の向こう側に見慣れた景色が映しだされた。ミサイルが落ちたここは散歩道だった。ここは近所の大学の真横だ。「街の距離感が手に取るようにわかった」。ロシア軍の車両で埋め尽くされているこの森の一本道も通ったことがある――。

なにか、自分にできることを

 眠れない日々が続いた。忙し…

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    江藤名保子
    (学習院大学法学部教授=現代中国政治)
    2023年3月18日9時56分 投稿
    【視点】

    この1年間、ロシア研究者や欧州研究者の的確な分析が世論をけん引してきました。その過程での、そして今も続く葛藤を率直に語ったインタビューです。研究者として共感する事も多く、第2回以降も是非拝見したいと思います。 大串教授が語っておられるよう

    …続きを読む
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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年3月18日19時5分 投稿
    【解説】

    ロシアのウクライナ侵攻ほど、国際政治学者に注目が集まった事象もないだろう。今回は合六さんと岡部先生、その後、私も取り上げていただく予定だが、こうした大学で教鞭を執る国際政治学者が、現実の問題に対峙し、それを理解しようとして戦う姿は、大学で学

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